4月から開講したパナデリア石窯パン教室・基礎コースも3回目を迎え、いよいよ後半戦に突入!(第1回目 第2回目
1回目のテーブルロール、ブリオッシュ、2回目のクロワッサン、デニッシュ、折込みパイに引き続き、今回のテーマは角食パン(2種)と山食パン、食パンに近い配合で作るレーズンパンです。トーストして朝食に、サンドイッチにして昼食にと大活躍の食パンは、日本のパンの代表選手。パン職人にとっても基本の生地といえるでしょう。  食パンは専用の四角い型に入れて焼き上げます。この型に蓋をして焼けば角食パンに、蓋をしないで焼けば山食にと姿を変えるのです。更に、食パン生地とひと口に言っても、様々な製法や配合があることをご存知ですか?それらの中から、今回は3種類の食パン生地とレーズンパンを作ってしまおうというわけなのです。早速、加藤先生から今回の実習についての説明が始まります。

「ひとつは最も基本的な配合のリーンな生地の角食、これはストレート法(直捏方式)で。ひとつは全卵や牛乳が入るリッチな生地の角食、これはオーバーナイトの中種法で。ひとつは砂糖が入らない生地の山食、これは湯捏ね方式で。そしてもうひとつは砂糖、全卵、牛乳が多めの生地にレーズンを入れて作ります。先の3種は型に入れて作りますが、レーズンパンは手成形で作りましょう。どれも全く違った味や食感になりますよ」

ストレート法に中種法に湯捏ね???いきなり専門用語が続出して、中にはちょっぴりとまどう生徒も。その不安そうな表情を察してか、すかさず加藤先生がひとこと。

「まあまあ、そんなにあせらないで(笑)。作りながら順を追って説明していきますから」


オーバーナイトの中種。
水を張ったボウルをあてて
常温で発酵させると程よい具合に



ミキシングを終えたリッチな角食用の生地。
量が多いのでボウルから台の上に移すのも一苦労




まずはリッチな角食(オーバーナイトの中種法)から。

「これ、昨日仕込んでおいたんですよ・・・」

そう言いながら加藤先生が見せてくれたのは、大きな業務用ミキサーボウルに入った中種。中種とは粉の一部に水と少量のイーストを加えて混ぜた種のこと。これを発酵させてから残りの材料と混ぜ合わせる方法を中種法といいます。中種法で作ったパンは、全ての材料を一度にこね合わせて作るストレート法に比べるとボリュームがありソフトな食感。また、生地の老化が遅いというのも大きな特徴です。そして中種法の中でも、種を一晩かけてゆっくりと発酵させたものがオーバナイト・中種法。ボウルの中の生地を見ると、すでにイーストが程よく活動している様子。このじっくりと寝かせた種が旨みとなって表れるのです。粉・イースト・砂糖・塩・全卵・牛乳などの材料をミキサーボウルの中でざっと混ぜたら、中種を入れて捏ね上げます。捏ね上がりの生地は、とてもなめらかで伸びと粘性のある状態。この時点でも、これまでに学んできた通常の生地とは明らかに違う気配が漂っていました。


山食用の湯種が完成


リッチな角食の生地を一次発酵させている間に、今度は山食(湯捏ね方式)の湯種にとりかかります。湯捏ねとは、文字通り粉の一部を熱湯で捏ねたもの。グルテンを強制的に糊化させる、熱い湯でグルテンの膜を破壊させる、更に吸水量が多くなるなどの効果で、もっちりサックリとした生地になるのです。この湯捏ね製法、元々は小麦粉のグルテン量が安定していなかった頃に考えられたものだとか。最近では「湯種〇〇パン」と称した商品を見かけるなど、ちょっとした人気のようです。粉の入ったミキサーボウルに熱湯を注いでしばらく混ぜ、ひと塊になった時点で冷凍。湯種がある程度冷えるまで待ちます。


大量の生地の分割にもだいぶ慣れてきた様子


続いて、全ての材料を一度に混ぜ合わせて作るリーンな角食の生地(ストレート法)を捏ね終わると、先に一次発酵させておいた、リッチな角食(オーバーナイト・中種法)を分割、成形して形を整えた状態で型に並べます。ここで、比容積についての講義が始まりました。型の容積が生地の何倍かを表す数値、比容積。これは、パン屋にとっては欠かせない計算方法なのです。

「ちょっとガムテープを持ってきてくれる?」

ん、ガムテープ?いったい何が始まるのでしょう・・・すると加藤先生、ガムテープで型の隙間をきっちりとふさいだかと思うと型いっぱいいっぱいに水を張り始めました。そして水を入れた状態での型の重さと、水を捨てた状態での型だけの重さをチェック。

「こうすれば容積がわかるでしょう?」

型の総容積がわかれば、後は簡単。総容積÷比容積=生地量になるのです。ちなみに、比容積の数値はだいたい3.8〜4.5位が一般的とのこと。この数値が高いほど軽くてソフトなパンになると言われています。シンプルな食パンでも店によって全く違った食感や風味になるのは、こうした比容積も関係しているのかもしれません。自分で作る時にも好みに合わせて比容積を変えてみると面白そうです。


伸ばした生地を奥から丸めた状態で型へ。
はらせる様に丸めるのがコツ



6個の丸めた生地を型に並べたらホイロで二次発酵


比容積について学んだ後は、早速、丸めた生地を型に並べていきます。これが意外と難しい!ひとつの型に6個の生地を並べるのですが、ただ並べるだけと思ったら大間違い!素早く作業していかないと、先に並べた生地が発酵して少しずつ膨らんできてしまうのです。しかも、

「均一な状態で型にぴったりと入れないと、焼き上がったときにボコボコの不均一な山になっちゃうよ」

いったいどんなことになってしまうのか、楽しみでもあり不安でもあり・・・。


先生手作りの秘密兵器で角食の発酵具合をチェック。
逆さにすれば山食用にも使える優れもの



型に生地を並べ終えると、加藤先生がおもむろに秘密兵器?を取り出しました。それは、角食と山食の発酵具合チェック用メジャー。メジャーといえるかどうかはわかりませんが、これを使えば、角食と山食に関して、それぞれどこまで膨らんできたらオーブンに入れれば良いのかがひと目でチェックできるようになっています。家庭で作るパンとは異なり、店では大量の商品を均一に仕上げることも大切な要素。こうした独自の工夫を重ねていくことも必要なことなのでしょう。


カレーの具は1個につき30g。
先生が具を目分量で取るとぴったり30gに!


具を包んでパン粉をまぶしたカレーパンの真ん中を十字にカットこんなに贅沢にトッピングできるのも自家製ならでは


型の中で程よく膨らんだリッチな角食パンをオーブンへ入れると、今度は

「今、型に入れたリッチな角食の生地はいろいろアレンジが可能なんですよ。せっかくだから残りの生地を使ってお昼用の惣菜パンを作りましょうか」

と加藤先生。その言葉どおり、小さく分割してカレーを包んでパン粉をまぶせばカレーパンに、クッペ状に成形して野菜やチーズをトッピングすればベーコンチーズオニオンパンに早変り。早速、焼き上がった惣菜パンとスープやサラダを囲んでのランチタイムとなりました。石窯で焼き上げたカレーパンはサクサクと軽くてソフトな仕上がり。溢れんばかりの野菜とチーズが乗ったベーコンチーズオニオンパンはふんわりしっとり。ほんのり甘みのあるリッチな角食の生地の味わいに食欲をそそられます。そして何より、毎度のことながら焼き立てのパンのおいしさに脱帽です!

焼成後にパン生地の温度をチェック焼カレーパンはヘルシーさも魅力です
パプリカ、玉ねぎ、シメジ、ベーコンにチーズ・・・トッピングの多さに感激!パナデリアスタッフお手製の料理と共に


ランチタイムを満喫した後にも、次なる作業が待ち構えていました。リーンな角食(ストレート法)の焼成、山食(湯捏ね方式)とレーズンパンの生地作りから焼成まで等々。そして今回も石窯が大活躍。蓄熱性に優れ、また遠赤外線効果で中心まで早く熱が伝わる石窯は、非常に窯伸びが良いのが特徴。窯を覗いていると、ぐんぐん生地が膨らんでいく様子が見て取れます。このため、他の窯に比べて高温短時間で焼き上げることが可能。食パンを焼いたときの温度はなんと、260℃!一般的には200〜220℃位で焼成することを考えるとかなり高めです。しかも、石窯の場合は生地の水分を保った状態で焼き上げるためふんわりしっとり。生徒たちも、石窯ならではのおいしさを存分に実感していました。

レーズン生地を小さく丸めてビス生地をトッピングクープをスッと1本入れてオーブンへ窯も順番に担当。重い天板を上げ下げするのは結構大変


製法を変えて作成した3種の食パン生地(ストレート法、オーバーナイト・中種法、湯捏ね方式)については、その食感の違いが明らかに。一般的なストレート法に対して、オーバーナイト・中種法は非常にソフトでしっとり、そして湯捏ね方式のものはもっちりしっとり。若干配合が違うとはいえ、同じ食パン生地でも様々な表現が可能だということがわかります。


次々と焼き上がるパンたち。今回もすごい量です



「こんなにたくさんのパン、どうやって持って帰ろう!?」

用意してきた袋に入りきらないほどのパンを抱え、嬉しい悲鳴と共に3回目のパン教室も無事終了。生徒たちは業務用の大きな機械や家庭では考えられないような膨大な生地量にもだいぶ慣れてきた様子でした。ただ、厨房での作業は力仕事が多く、女性の場合は業務用ミキサーの上げ下げや天板の出し入れなどで苦労する場面も。なかなか男性と同じようにはいかないようです。楽しさと同時に家庭で作ることとプロになることの違いもまた、感じているのかもしれません。(2006.6)

※パンの内容については、授業ごとに若干異なりますのでご了承ください






〜 今回作ったパンたち 〜


リッチな角食(オーバーナイト・中種法)
リーンな角食(ストレート法)
山食(湯捏ね方式)
カレーパン
ベーコンチーズオニオンパン
レーズンパン
レーズンスティック
シナモンレーズンスティック
レーズンチョコ
葡萄型ぶどうパン