<経歴>
1945年生まれ。娘さんの病気がきっかけで自然食に興味を持ち、会社員を辞めて「ルヴァン」甲田さんのもとで修業。神奈川県秦野市にて独立し、後に東京都世田谷区に店舗を移す。







今ではすっかり身近になった天然酵母のパン。天然酵母を使ったパン屋を取り巻く環境もだいぶ変わってきました。今までは自然派志向のお客さまが多かったのに対し、今では安全はもとより、純粋にその味を楽しむためにパンを買い求めるお客さまが増えてきました。
天然酵母と国産小麦にこだわるパン屋さん「ぴすとーれ」。前回取材をさせていただいてから3年が経ち、改めて近況を伺いに行ってきました。
前回の内容をご覧になりたい方はこちらから→
http://www.panaderia.co.jp/members2/craftsman/pistore_chef/index.html




      

「最近のぴすとーれのパンは、以前に比べてソフトになったと思うのですが。」
今回の取材のきっかけとなった出来事を話すと、「わかりますか!」と嬉しそうに答えてくれた山下さん。早速その話しからお聞きすることに。

「長時間発酵に切り替えたんです。以前はホイロを使っていましたが、今は常温で8時間ぐらいかけて発酵させています。酵母は日常の環境の中で生きているものだから、無理やり環境を変えると酵母にもストレスがかかってしまう。酵母が安心していられるような環境を作ってあげることが大事なんだと思います。発酵方法を変えただけで、使っている酵母は以前と同じ「サワードゥー」と「フルーツ酵母」。発酵方法を変えることでこんなに違いが出るなんて、自分でも驚きました。パンの修業をはじめてからもうすぐ20年になりますが、やっと自分で考えてパンが作れるようになったと思っています。」

店内に並ぶ保存瓶、これがこだわりの「フルーツ酵母」。ドライフルーツから起こす職人も多いなか、山下さんは生のフルーツから酵母を起こしている。




「この一瓶作るのに、完全無農薬のブドウ50kgを手で搾ります。もちろんドライフルーツでも出来るんですが、原液のほうがエキスがダイレクトにとれる。手間はかかるんですけどね。ちょうど今梅雨の時期ですが、空梅雨だと困ってしまうんですよ。酵母はカビと同じ微生物なので、湿気の多い時期は頻繁に活動する大切な時期なんですよ。」

添加物を使わない天然酵母のパンは消費者には嬉しいことばかりだが、その裏には職人の苦労話も尽きません。パン職人と店の経営者を両立させるのは難しく、職人肌の山下さんにも数え切れないご苦労があったそうです。そんななか、経営者の立場から天然酵母の長所を話していただきました。

「天然酵母を使ったパンの特徴として、日持ちすることが挙げられます。イーストを使ったパンは劣化が早く、結果的に廃棄するパンも多く出るので、それを考えると原価率を低くしなくてはならず、良い材料が使えないんじゃないかな。それにパンを捨てるなんて、世界中には飢餓に苦しんでいる人もいるのに・・・、自分で送料を払ってでも送ってあげたいくらい。せつなくなりますよ。」


そして、自然に作られ素材自体に栄養分や味がしっかりとあるものを選ぶという、山下さんの素材に対するこだわりも変わってはいませんでした。基本的に求めているものは同じだそうですが、商品の性質や成分が変わるものもあり、そのつど自ら納得したものを選んでいるそうです。

「小麦は八幡小麦とはるゆたかを半々でブレンドし、ライ麦は江別製粉のものを粒で購入し、石臼で挽いています。塩は、土佐の「天味塩」。ミネラル分が豊富なことと、土地の風土を生かして作っているところが気に入っています。水は、トリムという浄水器を通し、備長炭に一晩つけたもの。水の生命力って凄いんですよ。秦野に住んでいた頃は時々湧水を汲みに行っていましたが、その水は1ヶ月ぐらい腐らないんです。「自然のものってすごいなぁ。」と驚かされます。」







最近「マクロビオティック(*)」の考え方が普及してきましたが、これは以前から山下さんが取り組んできたこと。同じ志を持つ店との交流も盛んに行い、「自分も負けていられない!」と刺激されることも多々あるそうです。

 「マクロビオティックの調理法を勉強して、パンと食事の相性の勉強もしたいんです。なかなか余力がなくって、まだ実現できていないんですが。食事に添えるパンだけでなく、もう少し食事に近いパンも作ってみたい。新作のクロワッサンには、チーズと黒胡椒を入れたものを作ってみました。チーズがはみ出てカリカリになった部分が美味しいんですよ。次は、ピザパイもやってみたいな。」






パンを作るきっかけとなった娘さんは、すっかり元気になったそうです。「病気に悩むお客さんが来てくれると嬉しい」という山下さんは、最後にこんなメッセージを残してくださいました。 「人は、血液が汚れることによって病気になる。そこに薬を飲めばもっと血液が汚れてしまう。食を含めた正しい生活を送ることが何よりも大事なんです。病気で悩むお客さんとは、一緒に考えて取り組んでいきたいと思います。」




〜根強い人気のパン達〜
くるみレーズンアップルパイ






(*)マクロビオティックとはギリシャ語で「大きな」を意味するマクロと、「生命術」を意味するビオティックを合わせた言葉。住んでいる土地の旬のものを取り入るといった「身土不二」、素材を丸ごと食べるという「一物全体」の考えを基に、体質・食材などの陰と陽のバランスを考える食事法。






住所東京都世田谷区代沢4-4-2
TEL03-3795-8967
営業時間9:00〜18:00
定休日火・木
アクセス京王井の頭線下北沢駅から徒歩15分