![]() |
取材・文 佐々木 千恵美 |
#CacaoCollective カカオの知識を深めることによって、チョコレートを知る。インスピレーションを開放する。 カカオの共同体といった意味をもつ「カカオコレクティブ」は、カカオバリーが展開するカカオに関わる全ての人に向けた活動です。 Webサイトでは実際のカカオ生産現場のドキュメンタリーやトップシェフのレシピ、またインスピレーションを感じるためのイベント開催など、様々な地域での活動が公開されています。 毎回斬新なテーマで繰り広げられる#CacaoCollective。 3月27日に行われた7回目も、その切り口は感覚に訴えるものでした。 題してChocolate x Cocktail〜 Emotions〜。 チョコレートとカクテルで感情を表現する。 感情のテーマは「ワクワク」「嫉妬」「愛情」の3つ。 それぞれの感情をショコラティエとバーテンダーが、一品ずつ創り上げ、ぶつけ合い、化学反応を起こすというのです。 どんなことが起こるのか、当日まで想像がつかなかったのですが…。 会場はANAインターコンチネンタルホテル東京36階の MIXX bar。ここを選んだのも、今回のプレゼンター、及川浩司氏がヘッドバーテンダーを務めるお店だから。お酒が並ぶカウンター奥の窓からは、夜ならうっとりするようなイルミネーションが見られるのでしょうね。 はじめに今回のプレゼンターを紹介しましょう。 感情のショコラを披露してくれるのはメリッサ・コッペル 氏。 |
|
感情をカクテルで表現するのは及川浩司氏。 |
|
1つ目は「EXCITEMENT ワクワク」。
及川さんは世界的に流行しているグリーンティー(緑茶)を使って、モヒートをイメージしたノンアルコールカクテルGreen Tea Virgin Mojitoを作りました。 「面白い組み合わせにワクワクする。そんな感覚で、緑茶にライム、ジンジャーで清涼感を出したら、ライムと相性のよいバニラシロップで香り付けを。」 外国人から火がついた緑茶ブームを受け、日本人が世界に向け発信する緑茶のカクテル。ストーリーを聞いただけでワクワクします。爽やかな色合いと後味にほんのり甘く香るバニラが夢心地でした。 |
![]() |
「ワクワク」がテーマのノンアルコールカクテルGreen Tea Virgin Mojito アルコールカクテルのモヒートは、ホワイトラムライムとミント、ソーダを合わせたものだが、清涼感と甘さを緑茶とバニラに置き換えたアイデアにワクワクする。 |
対するメリッサさんは、UNEXPECTED + CURIOSITY + DESIRE と名付けた桃とゼフィールキャラメルガナッシュ、桃のコンポート、コンテチーズクランブルを組み立てた半球のボンボンを披露。 「ワクワクをどうとらえるか、2つの点から考えました。一点目は味、二点目は見た目です。色はカラフルにしよう。フィリングはコンビネーションでワクワクしたいと思いました。」とメリッサさん。 筆で描く独自のカラーリング。カカオバリーゼフィールキャラメル35%、ピーチ、コンテチーズ、ピーカンナッツの組み合わせはやってみたら合うしワクワク。 |
|
![]()
|
ゼフィールキャラメル×ピーカンナッツの組み合わせはすぐに思いつくけれど、ピーチやコンテチーズは普通の引き出しにはないでしょう。これは研究者フランソワ・シャルティエ氏による、ペアリングシートを活用して生まれたコンビネーション。シャルティエ氏による香りの分子構造を活用したペアリング理論は、カカオコレクティブ第5回で体験済みなのですんなり。食べ手にはサプライズ、作る側にとっては、思いもよらない組み合わせに、創造力をかきたてられるシートなのです。
*カカオコレクティブ第5回のレポートはこちら。 http://www.panaderia.co.jp/event_report/cacaocollective/index.html |
|
![]()
|
続いて2つめの感情「JEALOUSY 嫉妬」。
及川さんのカクテルはSeleta Punch サトウキビを原料としたブラジルの蒸留酒で国民的地酒カシャッサ。その代表ブランド「セレッタ」に、アップル、シナモン、アニス、クローブ、ジンジャーを5日間漬け込み、パイナップルジュース、オレンジジュース、ライムジュースをミックスしたパンチスタイル。グラスに注いだらきゅうりの薄切りを入れます。外国ではフルーツのようにきゅうりを使うことがポピュラーで、複雑な甘みを醸すそうです。そういえば海外でキューカンバージュースをいただいて癖になった記憶があります。ピンクのパンチにグリーンが映える一杯。飲めばスパイスがハートにしみわたり、深く、複雑な美味しさ。この心境がジェラシーでしょうか!? |
|
![]()
|
メリッサさんの嫉妬は、DARK + INDULGENT + BITTER エクアトゥール76%、アルンガ41%を使ったキャラメルバナナガナッシュと、アルンガ41%にカラクラキン、ヘーゼルナッツペーストをドライバナナ、コーヒー、海塩と合わせたコーヒーバナナクランチ。2つのパーツを二層にしたボンボンはコーヒーキャラメルのビターなエレメンツと、サクサク、塩バタートフィー、ねっとりしたバナナのテクスチャーが複雑に混ざり合います。 ジェラシーは感情のミックスだからとメリッサさん。及川さんのスパイスの抽出ときゅうりの甘さで複雑さを表現したところと通じます。 |
|
![]()
|
ちなみにエクアトゥール76%はカカオバリーの新商品。同ブランドの中では一番のハイカカオ。アリバ種のカカオ豆の力強さと苦味が特長で、バナナや甘草の香りが徐々に広がります。シャルティエ氏のシートにも、これらのキャラクターが描かれています。 |
|
![]()
|
3つめは「LOVE 愛」。
及川さんのカクテルはLove Supreme (Cafe Negroni)。 ジンをベースに、コーヒー、カカオリキュール、フェルネット・ブランカ、赤唐辛子を使ったツイストカクテル。 元々イタリアで生まれたカフェ・ネグローニというカクテルにちょっとひねり(ツイスト)を入れたもので、シェイカーでエアレーションを行い仕上げます。 「LOVEというと一般的な色のイメージはピンクだけど、私は赤だと思いました。普通のLOVEでは面白くないのでトウガラシの赤で表現しました。」と及川さん。 |
![]() |
「愛」をテーマに考案されたLove Supreme (Cafe Negroni)。 |
2012年にモロッコのマラケシュで開かれたWorld's Most Imaginative Bartenderコンペティションにファイナリストとして出場された及川さん。今回使ったジンは、その時のブランド「ボンベイ・サファイア」。
この大会審査で最も重視されたのがバーテンダーのクリエーティビティ。マラケシュのマーケットツアーを行い、買い物をし、最も独創的なカクテルの考案者が最優秀バーテンダーに選出されます。この時の経験が大いに刺激となったと語る及川さん。 「クリエーティビティはいろんなジャンルから生まれる。多様な引き出しを持ち、出し入れできることが大事。」 愛の媚薬的なカクテルを創り出すために加えるフェルネット・ブランカはイタリアの薬草酒。ゲンチアナ、カモミール、リコリス、ジンジャー、サフラン、リュバブ、東洋系スパイスなど、30種類のハーブ・スパイスを、ワインとブランデーの混合液に漬け込み、その後濾過して1年間東欧産大型オーク樽で熟成したリキュールは、聞くからにほろ苦そう。 赤い糸唐辛子が媚薬入りのほろ苦いカクテルに透けて愛の炎のよう。じっくり味わう大人の愛の一杯。堪能しました。 |
|
![]()
|
一方メリッサさんのLOVEチョコレートは、SWEET + FLORAL + DREAMY ライチのコンポート、ゼフィール34%を使ったラズベリーローズガナッシュ、同じくゼフィール34%とカカオバターとライトローストアーモンドペースト等で作ったライチクランチを重ね、白と赤、ピンクの色彩で仕上げたボンボンショコラです。 外観も内層もまるでケーキのようにキュート、鮮やかな赤がきいています。赤、ローズ、ライチで甘酸っぱくセクシーな女性の愛を感じる一粒。バレンタインの決め手にしたくなるショコラでした。 |
![]() | ![]() |
|
|
![]() |
「愛」で使用した代表的な素材。 |
コロンビア出身で現在はアメリカ・ラスベガスでスクールも運営しているメリッサさん。何故教えることを仕事にしたのでしょうか?
「コロンビアでは女性が教える仕事は少ないのです。7歳の娘がいるので、仕事で旅立つときは心苦しいのですが、それでも働いていること、自分の哲学を見せることが重要だと思います。」 教えることの裏側には母として子供たちに見せることの意味があったのですね。 |
![]() |
クリエーションに関する質問にこたえるメリッサさん。 |
今回はペアリングさせることが目的ではなく、交互にプレゼンテーションを行い、感情の表現を、ショコラ、ドリンクという違うジャンルのスペシャリストによるクリエーションで、感性をゆさぶられてみようという試みでしたが、目で見て、触れて、嗅いでという五感のイメージに加え、お二人のストーリーや経験の引き出しから、どんなものが出てくるのかがとても興味深かったです。 |
|
![]()
|
二人での打ち合わせなどせずに考案された品は、偶然同じイメージカラーであっても、選んだ素材や味わいは違っていて、それぞれのお話しを伺いながらいただくと一層面白く、感性を刺激されたのでした。ショコラもカクテルも切り口を「素材」に限ってばかりでは面白くない。感情、歌、演劇等…無形のものを味覚にする、味わう喜びをシェアしたい。懇親会では、そんな話を参加したシェフ達と語り合い、余韻を楽しんだのでした。 |
|
![]() | Panaderia TOPへ戻る |