![]() 第2回 「クリスマスのパン」へ→ |
年の瀬も迫る2009年12月、パナデリア石窯パン教室を開催しました。 今回は、『神奈川県産小麦を使ったパン』、『クリスマスのパン』というテーマのもと、2回だけの特別レッスン。講師には、もはやパナデリア石窯パン教室の顔ともいうべき、三宿の人気ベーカリー「ラ・テール」の栄徳剛シェフをお迎えしました。あの人気店「ラ・テール」や「アルティザン・テラ」と同じパンが学べるのも魅力ですが、栄徳シェフの穏やかな人柄と、何よりパンを愛するその姿勢にはファンも多数。特に粉の扱いにかけては、製粉メーカーの人も驚くほどの博識ぶりなんです。 という訳で、今回も櫛澤電機製作所にご協力いただき、「2009 パナデリア石窯パン教室」を開講。溶岩窯や大型ミキサーなどを使い、プロのパン屋と同じレベルの生地量を仕込むなど、実践的なパン技術を学びました。 それでは、その様子をレポートします。 |
特別レッスンの1回目となる今日は、『神奈川県産小麦を使ったパン』がテーマ。 小麦粉によって、味や食感にも違いがでるというけれど・・・。さてさて、どんなパンができるのでしょうか? “ガー、ガー、ガー” まだ人気のない教室に響き渡る、機械の轟音。え、栄徳シェフ・・・。いったい何をはじめたんですか? |
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「これですか?今、小麦を挽いているところなんですよ」 見れば、小型の精米機と製粉器が。神奈川県産小麦を使うとは知っていたけれど、まさか挽き立てを使うとは驚きです。 |
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「そうなんです。こうすると、風味が断然いいんですよね!『ラ・テール』では、毎日2台の製粉器を使い分けて、小麦、ライ麦、BIOの麦を挽いています。特にライ麦は、ドイツから輸入した高価なものよりも、こうやって挽いて使ったほうが香りも風味も楽しめておいしいんですよ」 小麦粉というと、長持ちするイメージがありますが、実はコーヒー豆などと一緒で、2,3日でその香りは飛んでしまうのだそう。それにしても、手間ではないのでしょうか? 「別に大変じゃないですよ」 と、製粉器から快調にはき出される小麦粉を、満足そうに見つめる栄徳シェフ。 ちなみにこの機械は、大豆やゴマを挽くのにも使え、和食の料理人にもファンが多いのだそうです。 |
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麦は精米機で汚れを落としてから製粉。もちろん、ふすまも使います
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そして、10時。いよいよレッスンスタートです。 「今日は神奈川県産小麦を使ったパンがテーマです。品種は、“ユメシホウ”と“ニシノカオリ”。“ユメシホウ”はとても味がいいので、挽き立てを全粒粉の状態で使っていきます」 |
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まずは、“ニシノカオリ”を使った「パン・ド・ロデブ」から。 「リュスティックはフランスパンよりも水分が多いですが、ロデブはさらに水分量が多い生地。普通は10%程度のライ麦が入るので、イメージ的には水分の多いカンパーニュのようなものです」 パン・ド・ロデブはフランス・ロデブ地方に伝わる伝統的なパン。水分はなんと90%以上も入るそうです。 そして登場したのが、ルヴァン種。さっそく鼻を近づけてみると・・・。 |
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酸味はほとんどなく、甘みとコクを感じる香りです。
「このルヴァン種は、『サフ ルヴァン』で起こしています。この『サフ ルヴァン』は、ルヴァン特有の香りがしっかりあって、かなり優れもの。ただ、捏ね上げ温度が低いと酸味が出やすく、まったく味わいが変わってしまうので、それだけは注意してくださいね」 最初から起こすのには時間がかかるルヴァン種作りも、『サフ ルヴァン』を使えばぐっと手軽に。ちなみに、このルヴァン種は13〜14時間発酵させておいたもの。プク〜ッと膨らんだら、冷蔵庫に入れておけばOKです。 そして、本捏ね開始。 「かなり水分量が多いので、途中からパシナージュで水を加えていきます」 パシナージュとは、捏ねてグルテンが出た生地に、さらに水を加えるという技法。グルテンの網目構造ができた間に水が入るので、特有の歯切れの良さを出すことができます。 「最初は生地がユルユルになって不安になりますが、ミキシングするうちにまとまってくるので大丈夫。水分は完全に一体化せず、少し浮いている状態でOKです」 |
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左はパシナージュ前の生地。パシナージュ後は、みずみずしさが増します
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捏ね上がった生地を触ってみると・・・。プヨプヨとして、パン生地とは思えないほどみずみずしい触りごこち。今回は水を90%入れましたが、100%の時もあるとのこと。ただ、粉によって吸水が変わってくるので、最初は無理をせず様子をみて水を入れたほうがいいそうです。
さて、次は“パン・ド・ミ・コンプレ”。「アルティザン・テラ」でも人気のアイテムです。 「お店では"ユキチカラ"の挽き立てを使っていますが、今回は神奈川県産“ユメシホウ”の全粒粉に置き換えて作ります。そして、メインに使うのはオーストラリア産のBIO小麦。見た目は白っぽいですが、香りはしっかりあるんですよ」 |
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今回はお店のレシピそのままということで、BIOの砂糖やハチミツ、ショートニングなどを使用しましたが、もちろん普通のものでも大丈夫です。
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「このパンには、バターではなくショートニングを使います。理由は、挽き立ての粉の香りをいかすためには、バターでは強すぎるから。BIOにこだわらなければ、ラードを使ってもいいと思います」 と栄徳シェフ。確かに繊細な風味は、バターのコクと香りに負けてしまうことも。こうした素材選びのひとつひとつが、おいしいパンを作り出す秘訣になっていることがわかります。 |
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「ツヤが出てなめらかになってきたら、ショートニングを入れます。生地の捏ね上がりは、生地が“ペチャ、ペチャッ”とボウルの回転に遅れて、生地が追いかけてくるのを目安にしてください」 もちろん、“ロウで○分”といった時間の目安も大切ですが、最後にものを言うのはやはり“職人の勘”、 目と耳で見極めるのことが重要です。栄徳シェフほどの職人になっても、ミキサーにつきっきりで、じぃっと生地を見守る様子が印象的でした。 |
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さて、捏ねあがった生地は、ロデブ生地よりはハリがあるものの、プヨプヨとやわらかで、まるでお餅のよう!やわらかい上にビヨーンと伸びるので、ボウルから取り出すのにも一苦労です。
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そして最後の仕込みは、ガレットです。 「余計なものを加えない、ごくシンプルな配合ですが、これが本当においしい。ふすまが入っているので、いっそうサクサクとした食感が楽しめると思います」 粉そのものの風味が楽しめる焼菓子って、意外に少ないと思いませんか?挽き立ての全粒粉で作るなんて、おいしくならないハズがありません!これは楽しみです。 「作り方はとてもシンプル。ミキサーのフックをビータ−に替え、やわらかくしたバター、グラニュー糖、塩を白くなるまで泡立てます。そして、卵を入れて混ぜ、さらに粉類を加えて低速で合わせます」 出来上がった生地は、ふすま分が入っているせいで、かなり茶がかった色合い。これを、冷蔵庫で寝かしてから、薄く伸ばして型抜きをします。 |
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“ピピピピ〜”
「それじゃあ、次はロデブ生地のパンチをして」 |
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ふと時計を見ると、そろそろお昼の時間。でも、お腹が空いたなんて言っていられません。発酵を終えたパン生地が、今か今かと待っているのですから。
そして、取りかかったのはパン・ド・ミ・コンプレ生地の分割。全量約18kgもの生地の分割ともなれば、参加者の皆さんもさすがに一苦労。楽しみつつも黙々と、カット、計量、丸めの作業をこなしていきます。 |
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ベンチタイムを取ったら、パン・ド・ミ・コンプレ生地を成形。
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伸ばして〜
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丸めて
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型に並べます。 お手本の栄徳シェフ作はさすがに美しい! 次は、パン・ド・ロデブ。発酵、パンチを終えた後も、ユルユル、ベタベタで扱いにくそうな生地ですが、いったいどうやって形にするのでしょう? 「これは、無理に成形しようとしてはダメ。パンカゴが丸くしてくれるというイメージです。計量したら四隅をつかみ、カゴに入れてもいいですよ」 |
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うーん、これは難しそう。そこで、栄徳シェフに伺ってみると・・・。 「手に生地がつかないうちに、放すこと!」 と、いとも簡単なことのように、奥儀を伝授してくれた栄徳シェフ。 確かに正論ですが、それが出来れば水の上も歩けそう・・・ですよね?(笑) |
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カゴにたっぷり粉をふり
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ベタ付く生地を、なんとか計量したら・・・
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無理に丸めようとせず、カゴへGO!
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チーズなどを入れても、とってもおいしいです
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30分ほどベンチタイムを取ったら、クープを入れて焼成します
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生地が驚くほどやわらかいので、クープ入れにも一苦労。ハラハラ、ドキドキ、教室内に緊張感が走りました。
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溶岩窯に入れたらやっとひと息、お待ちかねのランチタイムです。時計を見ると、針はすでに正午から90度も過ぎようというところ。ホント、パン職人はストイックでないと大変ですね。
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今日のランチを担当してくれたのは、「ラ・テール」スタッフの高橋さん。チキンのカレークリーム煮とカラフルなサラダにパンが良く合います!
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お馴染みの溶岩窯。この窯を使うと、 本当にふっくらしっとり焼きあがるんです |
焼き上がりを待つ間に今日のおさらい。粉、素材、温度、手順のことなどを再確認します。
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一度作ってみてから手順や素材のことを振り返ると、“なるほど、そこがポイントだったんだ”と、発見も多いもの。さらに自宅で復習すれば、こんな立派なパンも簡単に作れるようになるはずです。
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グレーの生地にボコボコとあいた大きな気泡は、透明感があり、みずみずしさを感じさせます。水分をたっぷりと含んだ生地は驚くほどしっとりやわらかで、口の中でやわらかく溶けていくよう。神奈川県産小麦“ニシノカオリ”の甘みと風味がしっかりと感じられ、いくらでも食べられそうなおいしさです。チーズはもちろん、ほかの具材を入れても!
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いわゆる全粒粉のエグミやカチカチと歯に当たる感じがなく、“え、これが全粒粉のパン?”と思ってしまうほど。“ユメシホウ”の風味や香りの良さがあって、優しいなかにも力強い味わい。食感はふんわりと軽く、しっとり感があって、とても食べやすいもの。挽き立ての全粒粉ならではの贅沢な一品です。
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見た目にも楽しい、大判のガレット。サクサクとした軽い食感と、口いっぱいに広がる粉の旨みは、あの“鳩サブレ”に通じる普遍的なおいしさ。シンプルなだけに、粉の風味がストレートに味わえます。
(2010.01)
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