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2回目のテーマは、クリスマスのパン。前回とがらりと趣を変え、「クワルクシュトーレン」「ベラベッカ2009」といったフルーツたっぷりの甘いパンと、見て楽しむ「飾りパン」を学んでいきます。


初めに大まかな手順を頭に入れてから作業に取りかかります


まずはベラベッカの下準備からスタート。
「ベラベッカは“洋梨のパン”という意味で、ドライポワールが入るのが特徴。他にも何種類ものドライフルーツとナッツが入ります」
と栄徳シェフの言葉通り、テーブルの上には大量のドライフルーツとナッツが! レーズン、アプリコット、イチジク、プルーン、ポワール、チェリーといったドライフルーツとゆずピール、それからアーモンドなど4種類のナッツが並びます。フィリングの総量は、粉に対して628%も!そう、これはフルーツとナッツが主役のパンなのです。だから、いいフルーツを選ぶことが大切。そして、更においしくするためにシェフが選んだ方法とは・・・?

「蒸すといいんですよ。ゆず、アプリコット、プルーン、ポワール、チェリーは10分程蒸気にあててあげます。そうすると、ほら、セミドライのようにやわらかくなるでしょう。そのまま使うよりもフレッシュに近い状態になるんです」


鍋にお湯をはって網に入れたドライフルーツを蒸します。
暫くすると、フルーティーな香りがふわ〜


確かに、水分を含んだフルーツはふっくらしっとり! 香りもふくよかで見るからにおいしそうです。

「ただし、レーズンとイチジクだけはブランデーで香り付けしたものを使います。フルーツそのままのものと、洋酒で香り付けしたものと、それぞれ楽しめるのがいいかなと思って」

レーズンのようにお酒と合わせることで深みが増すものもあれば、ゆずのようにそのままの香りを楽しみたいものも。こんな風に、フルーツの扱い方ひとつでも、プロのコツがたくさん。丁寧な作業の積み重ねからおいしさが生まれるのです。


低速で5分ほど捏ねたベラベッカの中種。水分が少なめで見るからに硬そう


「では、ベラベッカの中種を作りましょう。牛乳と蜂蜜、インスタントイースト、粉を入れてミキシングします。牛乳は30℃位あればイーストが活性するのでそのまま入れて大丈夫。5分くらいまわして滑らかになったらOKです。捏ね上げ温度は25〜26℃を目指して下さい」

中種作りは、低速で混ぜるだけなのでとても簡単。出来上がった生地は、けっこう硬めです。そのまま30分ほど発酵させます。


今回使用したのは、フランスLa Viette社のフロマージュ・
ブラン。あっさりしていながら、チーズらしいコクがあります


続けて、クワルクシュトーレンの中種作りへ。・・・といきたいところですが、そもそも、クワルクって何でしょう?あまり耳慣れない名前ですが・・・?

「クワルクは、ドイツでよく食べられているフレッシュチーズのこと。日本ではなかなか入手できないし、しかも高いので、フロマージュブランで代用できますよ」。

乳を乳酸発酵させて凝固させたクワルクは、ヨーグルトに似ていますが、もっと酸味はまろやかでコクがあるもの。フルーツやナッツと合わせて食べるのはもちろん、パンに入れたりお菓子に使ったりと、ドイツでは欠かせない素材のようです。そのクワルクに比較的近い、フロマージュ・ブランを、シュトーレンの中種に使用。フロマージュ・ブランと生イーストと粉をボウルに入れたら、ベラベッカの時と同様に低速でミキシング。先ほどと違って生イーストを使うのは何故でしょう?

「これはオリエンタルのUS生イーストで、耐糖製があるので多めのフルーツを入れても綺麗に膨らんでくれるんです。あとは生イーストの方が風味がよくなるとか食感も違うからと、好んで使う人もいます。もちろん、ドライイーストでもできますよ。その際には1/3量に減らしてください」

捏ね上がりの生地は、ベラベッカの中種よりはやわらかめで、表面は少しざらついている状態。このまま20分ほど発酵させます。


捏ね上がりの生地(左)を暫く発酵させ、倍くらいになればOK(右)


「・・・といっても、いつものパンのように発酵させるわけではなく、ちょっと休ませるくらい。イーストが元気なうちに焼いてしまう感じでいいんです。早め早めにと、考えてください」

というわけで、少し寝かせたら、早速、本捏ねの作業へ。シュトーレンにもいろいろな作り方があって、今回作るのはお菓子に近いタイプ。リーンなタイプの場合には、ブリオッシュ生地のようにバターを後から入れますが、ちょっと違うようです。


バター+砂糖をしっかりクリーミングしてから、中種や粉を投入。
最後にフルーツ類を入れ、均等になるまで混ぜます


「まずは、やわらかいバターと砂糖をボウルに入れてミキシング。中速でクリーミングしていきます」

目安は白っぽくふわふわになるまで。そう、まるで、クッキーやバターケーキを作るときのシュガーバッター法の要領です。こうすることで口溶けもよくなり、また、粉を入れてからのミキシング時間も短くて済むそう。出来上がった生地も、まるでクッキー生地のような硬さです。そのため、成形もやりやすいのが嬉しいところ。10分ほどベンチタイムをとった後、分割し、センターに棒状のマジパンをのせてなまこ型に。バターが溶け出さないよう、20℃〜25℃くらいの少し低めの場所で30分ほど発酵させます。


おいしいマジパンをたっぷり入れるのがポイント。
はみ出さないようにしっかり包んで、おくるみの形に


「中に入れたマジパンは、ドイツのリューベッカのもの。安くはないけれど、風味が全然違いますよ」
せっかく入れるなら、マジパンもおいしいものを。アーモンドの風味が濃厚なリューベッカのものは、マジパンはちょっと苦手・・・という人にこそ、トライして欲しいお勧め素材です。


発酵後のベラベッカの中種(左)。これを、クリーミング
したバター+砂糖(右)にちぎり入れます


さて、もうひとつのベラベッカの本捏ねも、シュトーレン生地と似ています。初めにバター、砂糖と蜂蜜を白っぽくなるまでクリーミングしたところに、2倍に膨らんだ中種を投入。

「中種はちぎって入れると混ざりやすいですよ。馴染んだところで、粉を入れてしっかりミキシング。伸びのよい生地にします。続けてフルーツを入れていきます」。

見ると、先にレーズンとイチジク以外のフルーツを入れて暫くミキシングした後、レーズンとイチジクを入れ、最後にナッツを・・・というように3段階で合わせているようす。


ベラベッカはフルーツだけでもこんなにたくさん!


オーガニックシュガーやバニラパウダーが
入っているため、茶色がかった生地に


「レーズンとイチジクは洋酒につけているので、あまり混ぜたくないんですよ。というのも、生地にあまり洋酒の香りを移したくないなと思ったので。それから、ナッツはあまり長いこと混ぜると割れてしまうので最後に入れて、さっと混ぜるだけにします」

なるほど、フィリングの合わせ方にも、シェフのねらいがあったとは!こうしたちょっとの心がけで風味に違いが出るのが、パンの面白いところなのです。できた生地は、少し休ませてから分割し、細長くまとめたらグラニュー糖の入った袋の中で転がして、まわりに砂糖をまぶします。その後、パウンド型に入れるというのはちょっと珍しいやり方です。これにも何か意図がありそうな予感・・・?


型に紙をしいて水を吹き付け、グラニュー糖を
まぶしておくと、表面がキャラメリゼされて艶々に



生地を型に入れたら、上にパウンド型を重ねて平らにならします


「うちではシュトーレンも型入れのタイプで、これとほぼ同じサイズなんですよ。サイズを揃えたら、セットにしてギフトにもしやすいでしょう?」

同じパンでも、形が違えばずい分イメージが変わるもの。綺麗に揃ったシュトーレンとベラベッカをボックスに入れれば、クリスマスのギフトにもぴったりです。

さて、シュトーレンとベラベッカが無事に窯に入ったら、今度は飾りパン!ベージュ、茶、赤、緑・・・色とりどりの生地がテーブルに並べられます。

「飾りパンは時間がかかるので、生地は先に仕込んでおきました。これを使ってリースを作ります。どれも同じように見えますが、実は、リースの土台に使う生地と、リースにつける飾り用の生地は違うものなんです」


飾りパンの生地はかなり硬いため、シーターがあると便利


土台に使う「レトロ生地」は粉が多めで水分や砂糖が少ない配合。しっかり硬めの生地で壊れにくいのが特徴です。対して飾りに使う「シロップ生地」は粉とシロップを練ったもの。少しやわらかめで乾きにくいため、細かいものを作るのに向いています。どちらも材料を混ぜ合わせた後、シーターで(またはメンボウで)滑らかになるまで伸ばします。出来上がりは、まるで粘土そのもの!子供のころ楽しんだ、懐かしい手の感触がよみがえります。

「まず、棒状に伸ばした生地をリング状に形づくって、そのまわりに細長く伸ばした生地を何本も巻きつけていきます。これでリースが完成。そして・・・」




棒状に伸ばした生地をつなげたり、絡め
たり・・・リースを作るまでは楽勝?!




いよいよ飾り作りですね?いったいどんなものを作るのでしょう?

「アンパンマンです。キャラクターものを作ってみようと思います」

えー?!アンパンマン??? なんだかラ・テールのイメージとは違うような気もしますが・・・。

「ここに白、黒、赤、緑の生地がありますから、これらを使い分ければ何でもできますよ。こうして、こうやって・・・ほら!」


まずは真ん中に大きな鼻を乗せて・・・


目、ほっぺ、口もつけて・・・だんだんそれらしくなってきた!


かわいいアンパンマンが完成!不思議とシェフに似てる???


白生地をくるくるっとまるめて平らにした上に、黒生地を小さくまるめた目や赤い鼻、眉、口を次々と乗せれば、あっという間にアンパンマンの出来上がり!白、赤、黒といっても、ライ麦やココア、パプリカなど天然素材で色付けしているからナチュラルな仕上がりです。子供っぽくなりすぎないシックな色合いだから、ラ・テールのイメージにもぴったり。これなら大人も子供も楽しめそう。


カードやナイフを使って切り取れば、
しょくぱんまんだってできちゃいます


「では、皆さんもやってみましょう!」

というシェフの言葉を待つまでもなく、生徒さんたちもヤル気満々。しょくぱんまん、カレーパンマン、メロンパンナちゃん、ドキンちゃん・・・と、作り始めたら止まらない?!この時ばかりは時間も忘れて、黙々と作業にうちこみます。いつものパン作りとも違って、これもまた楽しい!

「はい、ではそろそろ窯に入れますよ。土台と飾りは別々に焼いてくださいね。土台の方はしっかり固まるまで長めに焼いていきますから」

まだまだ、あれもこれも作りたい!そんな後ろ髪を引かれる思いで、窯の中へ。どんな風に焼き上がるのか、ドキドキです。


飾りは何にしようかな・・・考えるのもまた楽しい!
皆さん、ふだんのパン作りとは表情も違います


ベラベッカ、シュトーレン、飾りパンと全てが窯の中に入り、一段楽したところでようやくランチタイムに。この日も、すでに3時をまわり、お腹は極限状態(なのはパナデリアだけ?)。とはいえ、全てはパンの状況しだい。パン屋の仕事はハードなのです。


ランチはお手製のクロックムッシュ。
クリーミーなスープと共に


窯に入れて待つこと、約30分。あま〜い香りとともに艶々のパンが焼き上がりました。シュトーレン、ベラベッカ、そして飾りパンのリース、と揃えば、もう怖いものなし!こんな素敵なパンが作れたら、クリスマスも盛り上がりそうです。

「粉を変えて作ってみるのも面白いですよ。例えばベラベッカ。今日はハルユタカを使いましたが、国産の全粒粉を使えばもっと濃い風味を出せます。粉によって吸水が違いますから、水の量を調節してくださいね」

前回作ったパンからもわかるように、粉による味の違いは歴然。自分の好みに合わせた粉選びができるようになればしめたものですね。


まわりがキャラメリゼされてこんがり色づいたベラベッカ。
おいしそう!


シュトーレンは熱々のうちに、大量のバターの海へ。
これがおいしさの秘訣


さて、今年もいよいよパナデリア石窯パン教室がスタートします。皆さんも栄徳シェフと一緒に、パン作りを学んでみませんか?シェフならではのテクニックや素材使いに驚かされますよ!
詳細はこちらから→http://www.panaderia.co.jp/panaderia_news/bosyu_ishigama2010/index.html




クワルクシュトーレン

さっくりと焼けた外側は、クッキー生地のような口当たり。内側はしっとりとやわらかく、センターのマジパンとも馴染みます。たっぷりのバターを吸った生地とアーモンドの風味が濃厚なマジパンとが口中で重なると、なんとも言えずリッチでおいしい。それでいて後味が爽やかなのは、クワルクのおかげかもしれません。更に大粒のナッツや香りよいフルーツが賑やかさをプラスして、ついもう一切れ・・・と手が伸びてしまいます。爽やかなゆずの香りとカルダモンの余韻が特徴的な一品。




ベラベッカ2009

パウンド型で焼き上げたベラベッカは、まわりがキャラメリゼされて艶々の仕上がり。キャラメルの風味も効いています。中にはフルーツとナッツが、とにかくぎっしり。丁寧な下準備をなされた素材は、それぞれがしっかりと風味を主張し、深みのある味わいに。しっとりやわらかいフルーツとコリコリのナッツ、噛み応えのある生地・・・と、食感の違いも楽しめます。ブランデーとバニラの甘い香りで、やさしくふくよかな印象。




飾りパン

直径15cmほどのリースにキャラクターをいくつものせた飾りパン。生地さえ仕込んでおけば、粘土細工のようにいつでも気軽に作れます。キャラクターだけでなく、フルーツやパン、動物など、形も自由自在。しっかり焼いて乾かせば、長いこと保存できるのも嬉しい。


パナスタッフK&Sの共同作品。
どうです?なかなかの力作でしょ?


生徒さんのリース大集合!


(2010.02)






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