第30回目を迎えたフランス文化を識る会によるプロ向けの製菓講習会!
新しい技術や素材を追い求めるのはなく、文化としてフランスの「食」を広く紹介したい、そんな意義ある会に今回もお邪魔させていただきました。(前回の様子はこちらです)

*職人ルルー氏の素顔に迫ったインタビューはこちらでご覧いただけます。 (会員専用ページです)


今回の講師はステファン・ルルー氏。ご存知ない方も多いと思いますが、2004年のM.O.Fにして2003年、2004年のWPTC(ワールド・ペストリー・チーム・チャンピオンシップ)のショコラ部門でベルギーチームを2度の優勝に導いた、今一番注目といっても過言ではないパティシエの一人です。


ベルギーチーム、と書きましたが、実際にルルー氏の住んでいるのはフランス北部ノール地方。ベルギーの国境から3kmという場所にあり、ベルギーとはとても身近な関係。毎日、車で70kmの道のりを運転してブリュッセルまで仕事に行っているのだそうです。


現在は教職やアドバイザーとして活動しているルルー氏。M.O.F、そして数々のコンクールと、そのおいしさと技術は確かながら、実際に彼のお菓子を食べられるのはめったにないこと。非常に貴重な機会でもあり期待が高まります!

やさしくて、几帳面なルルー氏



遠方からの受講者も多いそう。皆真剣です!

会場は、江戸川区西葛西にある日本パン技術研究所。
講習は1コース2日間の3コース。朝9時から夕方4時までというハードなスケジュールが6日間続きます。実際に参加させていただいた、4日目(第2講習の2日目)の様子をご紹介します。

講習会は9時ぴったりにスタート。時間にアバウトな感のある外国人ですが、ルルー氏はとても正確で几帳面!時間だけでなく、いつも身の回りに必要最低限の道具しか置かず、さりげなく片付けながら進行していきます。こういう細かい所にこそ、シェフの人柄が現われるものだと実感。
そして一番驚いたのは、ショコラの作業!通常、ショコラを扱うと周りが汚れてしまうことが多いのですが、テンパリングやピストレ、ボンボンショコラを作る作業などを、通常の作業の合間にいとも簡単にこなしてきます。そして講習会終了時に、コックコートには1点の染みもなかったのには脱帽です!



黄と赤の色粉を溶かしたカカオバターを刷毛で
フィルムに塗り、ショコラの細工を作ります


これはすでにカカオバターに色粉が
溶かしてあるタイプ。簡単に使えます


先にも書いたとおり、ショコラはルルー氏の得意分野。特に、ショコラの飾りを作るときは目が輝き、何か工作でもするように次々と色や形の違うものを作っていきます。
面白かったのは、色粉の使い方。グラッサージュ・ショコラには温かみを出すために赤い色粉を加えたり、また、色粉を溶かしたカカオバターをフィルムに刷毛で塗り、その上にショコラブランを流して飾りを作ったり・・・。
もうひとつ驚いたのはピストレについて。「私はホームセンターに売っているもっと小さいサイズのピストレを買い、常に10種類くらい色を用意して使い分けています」とのこと!何でもそのピストレは、タンクの部分が上になっているので液体が出やすいのだそうですが、ホームセンターにピストレが売っているとは!?ベルギーではピストレってそんなにポピュラーなんでしょうか。



金、銀、銅の色粉も


これが黒いショコラ!
白以外の色粉を混ぜて作ります


また、色粉の使い方について「黒いショコラを作るにはどうしたらいいですか?」という質問があると、少し考えて「いい質問です」との返事。表情を伺うと、何か思うところがあったようす。
そして、「黒いショコラを作るには2つの方法があります。1つは、炭の色粉を手に入れること。これは、中々扱っているところがなく難しいです。そしてもうひとつは、赤、青、黄全ての色素を混ぜること。ただ、黒いショコラは賛否両論で、例えばコンテストでもショコラはショコラ色でないといけないという考えから『これは一体なんだ?!』という意見と、『素晴らしい!』という意見に分かれることが多いです。それから、かなり大量に色粉を使うのでお金もかかるし、実際これを口に入れとなるとちょっと問題がありますね」とコメント。その後、タイトな講習スケジュールの合間を縫って、とても珍しい黒いショコラを作ってくれましたが、確かに大量の色粉を使った時間もお金もかかる作業でした。

講習会で使用した材料ですが、バター、小麦粉などは全て日本のもの。日本の小麦粉は吸水性が良いため、パン系のものを作る時には水を足し,生地の様子をみて調整していました。
「日本の小麦粉もバターも問題なく、良いものだと思いますよ」と、弱冠の違いは意に介さない様子のルルー氏。日本では、フランス産の粉、バターと聞くと、ワンランク上のおいしさを想像しがちですが、イメージが先行している部分もあるのかもしれません。


お菓子のラインナップは、ベルギーらしいもののほか、日本では絶対に食べることのできない地方色豊かな充実したラインナップ。特に、ノール地方で朝やおやつにいただくパンのようなお菓子などは、素朴なおいしさでとても印象に残りました。

ルルー氏のレシピにはよく使われるのがアーモンドミルク。残念ながら日本では入手不可能だそうで、今回使用したのはこのアーモンドシロップ。ベルギーでは良く使うのだそうですが、フランスでは手に入りにくいそうです









◆ まだまだあります。ショコラの技! ◆



● お気に入りのショコラ用フィルム

本国から、何種類ものショコラ用フィルムや転写シート、色粉などを持参してきたルルー氏。細いストライプが凹凸になっているフィルムは特に気に入っている様子で、何度か使っていました。


● 丸秘技!

オーブンペーパーをくしゃくしゃに丸め、そこにコパー(銅)の色粉を刷毛で塗り、ショコラを流して成形したもの。ルルー氏ならではの技がここにも!


●最強兵器!?

様々なショコラの技を披露してくださったルルー氏。その中でも、最強兵器がこれ!約5mm幅に刃がついたカッターです。
どのように使うかというと、フィルムの上にテンパリングしたショコラを流し、表面が乾いたら、これを使って切れ目を入れます。その後、円筒形のものに巻きつけて固めればクルッとカールしたデコレーション用のショコラが完成!


● 日本のハケ

ショコラの細工にも刷毛は必需品。写真のような微妙な筋を描きます。
「この刷毛はとてもしなやかで使いやすい!いただいて帰ってもいいですか?」
と日本製の刷毛を気に入った様子のルルー氏。
フランス製の刷毛は抜ける毛が多いため、今や使用を規制されているのだとか!