試食を終えて実感したのが、同じ粉を使ったシンプルなパンばかりなのに、想像以上に個性豊かだったこと。
これは、外麦のように簡単にはいかない国産小麦だからこその結果なのもしれません。パン職人の腕の見せ所という訳です。

ところで、味や食感の違いは当然としても、気になるのが「シニフィアン・シニフィエ」の産地違いのニシノカオリを使ったバゲット。どうして同じ品種で作り方も同じなのに、味や香り、食感までもが違うのでしょう?

「小麦の成分値は地域によって変わってきます。タンパク質量±1というのは普通の範囲内。同じ神奈川県内でも、北と南では味や質が違うんです。ですから、県内でも小麦に合う土地を選ぶべきなのかもしれませんね」
と、山田さん。

藤巻シェフも興味津々。

「おいしい!こういうパンだと、粉の味をわかってもらえますね」
と生産者の田代さんも嬉しそう


日本国内でも味や成分に差が出るのだから、海外と違うのは当然のこと。
「例えば、今回のニシノカオリ(神奈川県産)は、タンパク質量が12.24と高いのですが、外国産に比べてグルテン形成能力が弱いんですよ。これは技術のある人向きかもしれませんね」
通常、小麦粉を選ぶ際にはタンパク質量や灰分を目安にしますが、実はその性質も重要。ちなみに、国産小麦特有のモチッとした食感もこの性質ゆえ。良くも悪くも、日本の気候や土が作り出す特有の性質があるのです。

「ワルンロティ」の大和田さん。お父様が開発したパン用の国産小麦「小雪」で作るパンが人気ですが、一時は「小雪」の栽培がストップしてしまったことも。「神奈川県で作っていただければ嬉しい」と関心を寄せていました

試食後に、
「お醤油の焦げたような香りがしました。お煎餅みたい!」
というコメントがありましたが、郷愁を誘う香りは国産小麦特有のものなのでしょう。考えてみれば、米も麦も、同じイネ科の兄弟!その味は、種を越えて、日本の土が生み出すものなのかもしれません。