界地図をぱっと見してもわかりませんが、バルト海には無数の島があります。その中には、大きな島もいくつかあり、イタリアのつま先部分に浮かぶシチリア島のように、歴史的にも存在感のある島があります。それがこれから紹介するゴットランド島(Gotland)です。

ゴットランド島はストックホルムの南、バルト海に浮かぶスウェーデン最大の島。北欧きってのリゾート地であり、中心市ヴィズビーは12世紀から15世紀にかけて、ハンザ同盟の貿易港として繁栄した歴史のある町。多数の遺跡、教会、廃墟など、趣きのある町並みはユネスコの世界文化遺産に登録されています。あの宮崎駿監督のアニメ「魔女の宅急便」のモデル舞台もここなのですよ! ちょっと南欧を思わせる石造りの教会廃墟、オレンジ屋根の町並みと海は、写真を見るだけで憧れ、いつかは訪ねてみたいと思っていました。

ぼんやりと憧れ続けたゴットランド島に、「次はここだ!」ときっかけをくれたのが、2年前のオーランド島への旅。オーランド島名物のパンケーキ作りを習ったソリさんがつぶやいた一言でした。

「オーランド島のパンケーキは、セモリナ粉のお粥で焼いて、プルーンジャムとホイップクリームを添えるスタイルだけど、オーランド島の南方にあるゴットランド島にも似たようなパンケーキがあるの。あちらはお米のお粥にサフランを入れて焼いたものだけど」。

◆オーランド島パンケーキの記事はこちら・・・
http://www.panaderia.co.jp/hokuou/014/index.html


サフラン入りのパンケーキ? しかもお米の粥で?

それを聞いた時の興奮ったらありません。なにしろクリスマスシーズン、サフラン入りの菓子パン、ルッセカットもお店に出回っていた時期です。ただでさえ貴重なサフラン入りのお菓子が、ゴットランド島では一年中食べられる名物だなんて!

◆サフラン入りクリスマス菓子パン ルッセカットの記事はこちら・・・
http://www.panaderia.co.jp/hokuou/009/index.html

んな経緯で昨年、最も島のにぎわう夏に、サフランパンケーキを味わいに行ってきました。まずはイメージを高めるために、ゴットランド島の景色、町並みなどをご覧ください。

夏のシーズン中は、一日に何便も大型フェリーが、ほぼ満席で本土と島を行き来する。空路のアクセスもあり。

ヴィズビーの西側城壁から一歩道を渡れば美しい浜が続く。絶好の散歩道。手前のビーチでは、ロックコンサートの派手なビートが響く。静と動、このコントラストも夏の風物詩。

同じバルト海に浮かぶ島なのに、300kmくらいしか離れていないオーランド島とは雰囲気がまるで違うことに驚きました。ヴィズビーは石造りの城壁を登って町を見下ろしたり、石畳の小道を歩くのが楽しい。

城壁の上から旧市街をのぞむ。13世紀に建てられたサンタ・マリア大聖堂の黒い塔は、ヴィズビーのランドマークともいえる建物。

バラの町とも言われるヴィズビー。通りに美しく咲き誇るバラと趣のある家並み。

レースのカーテンがたれる古い木造家屋の窓もフォトジェニック。

城壁内のメインストリートにはお店が立ち並び、人通りもにぎやか。しかし、一歩細い道に入れば、家々の壁や窓を飾るバラの花に癒されます。

小道には、思わず声をあげてしまうカフェとシナモンロールのデザイン看板が!

城壁内のメインストリートには、ブティックやカフェ、お土産屋さんが並ぶ。

町の中心ともいえるサンタ・カタリーナ教会の廃墟前の大広場。

町歩きの休憩にうってつけのカフェもあちこちにあります。メニューを見るとサフランパンケーキはたいていのカフェにあったので、その中の一軒、Hedbergs Bok&Musikkafeに入りました。いよいよサフランパンケーキ初体験です・・・。

カフェの自家製サフランパンケーキ。ロウソクの受け皿に置かれたマッチ箱のデザインもかわいい。ろうそくが必需品の北欧、このマッチは現在もスーパーなどで売っています。

レシピつきポストカードはお土産に。

ずらりと並んだカフェのお菓子。左奥の黄色いものがサフランパンケーキ。その右はブルーベリーパイとにんじんケーキ、手前ガスニッカーズ、チョコレートボールとスウェーデンではポピュラーなものばかり。

パンケーキに添えられたSalmbärssylt(サルムバールジャム/日本語訳はないのでそのまま記します)も販売されている。

オーダーすると温めたパンケーキにたっぷりのホイップクリームとサルムバールジャムが添えられ出てきました。断面を見るとお米の粒々がはっきり見えます。サフランの香りがするので、どうしてもパエリヤを連想してしまいますが、食べてみるとフランのような生地に刻みアーモンドがところどころカリッと音を立て、甘酸っぱいサルムバール&クリームと一緒に食べると、不思議と調和してしまうから不思議。パンケーキ自体は甘さ控えめなので、軽食にもなりそう。

ちなみにサルムバールは、ゴットランド島に自生するベリーの一種。ブラックベリーやラズベリーを小粒にしたような形で、プラムやカシスのような香りと酸味があります。ゴットランド島では8月下旬から10月に収穫し、ジャムなどに加工して保存するとのこと。ジャムは島内のスーパーや食品店で買うことができますよ。

◆Hedbergs Bok&Musikkafe
http://www.hedbergskafe.com/


日、2個目を食べたのは島南部の町Hemseにあるパン・菓子カフェ店Jonassons Konditori&Bageri。創業から100年以上続く老舗の売り場には次々とお客さんが入店、列をなしていました。まるでパリの人気パン屋状態! イートインで食べるサフランパンケーキのオーダーも同じ列に並んで行います。

Hemseという町にあるJonassons Konditori&Bageriの看板。

店内にはお客さんの行列ができていました。そのためショーケースもゆっくり見ることができませんでした。

売り場の壁にはメニュー表、そしてSaffranspannkaka med sylt&gräddの大きな文字があった!

順番がまわってきたときに急いでショーケースを撮影。一目見てわかる上段のにんじんケーキやブレッツェル、シナモンロールのほか、おやつ系のパンが何種類も並ぶ。

こちらのものはスクエアカット。何よりパンケーキを上回るクリーム&自家製サルムバールジャムのボリュームに圧倒されました。・・・が、食べ出すとどんどん欲するから恐ろしい。アーモンドのカリコリ食感も、サフランの香りもサルムバールジャム&クリームと重ねることでここまで心地よく感じるとは! アメリカ系のパンケーキにはメープルシロップ&バターが必須のように、サフランパンケーキには、クリーム&サルムバールジャムが欠かせないことがよくわかりました。この組み合わせを考えた人は偉い! そういえば、黄色と青はスウェーデン国旗カラーですね。

Jonassons Konditori&Bageri自家製の美味しいサルムバールジャムとたっぷりのホイップクリームを添えて。天気がよいのでお店裏のガーデンテラスでいただきました。

◆Jonassons Konditori&Bageri
http://www.bagarns.se/


ころで、あたたかい国の産物であるサフランやお米を使った伝統菓子が、どうしてスウェーデンにあるのでしょうか? 手持ちの本によれば、両方ともハンザ同盟の栄えた14世紀、海上交易によってもたらされたそうです。別の本ではそれ以前、ヴァイキングが東方から持ち帰ったのでは・・・とも。アーモンドも含め、高価で希少な交易品を使いこなして生まれたなんて、しかも今では年中食べられるなんて幸せなことですね。

なかなか想像のつかないお米粥入りサフランパンケーキ、一度作ってみませんか? 最後にレシピを紹介します。日本で入手できないサルムバールジャムは、ブラックベリージャムやブルーベリージャムで代用してみてください。

Saffranspannkaka (ゴットランド島風 サフランパンケーキ)  

 
材料:18cm耐熱皿(流したときに生地が高さ3〜4cmくらいになる型)
150ml
米(無洗米)50ml
サフラン0.3g(ひとつまみ)
シナモン1/2本
粗挽きカルダモン小さじ1/2(なければホールの殻から粒を出し、粗挽き胡椒くらいに刻む)
牛乳300ml
生クリーム(34%)100ml
約2g
はちみつ30g
2個
レーズン20g(お湯でやわらかく戻し水分を切る)
ローストアーモンド20g(湯通しして皮をむき、粗く刻む)
サフラン漬けブランデー10〜15ml(鮮やかな色と香りを出すためサフラン1/4つまみをブランデーに一晩漬ける)

仕上げ:
サルムバール(ゴットランド島に自生するブラックベリーの一種)ジャム、またはブラックベリーやブルーベルーのジャム
生クリーム(しっかりホイップしてヴァニラシュガー少々で甘さと香りをつける)

作り方:
1)まずはお粥を作る。鍋に米、水、サフランを入れ10分ほどサフランの色を出す。カルダモン、シナモンを入れ、火にかけ、ときどきかき混ぜながら、水分がほとんどなくなるまで弱火で煮る。
2)牛乳、生クリームを加え、ゴムベラでかき混ぜながら、焦がさないように弱火で約30〜40分、米がやわらかくなるまで煮る。塩を加え、味を調えたら火からおろす。
3)シナモン棒を取り除き、はちみつ、アーモンド、レーズンをまぜて冷ます。
4)ときほぐした卵を加えホイッパーでよく混ぜ、サフラン漬けブランデーも加え混ぜたら、バターを薄く塗った耐熱皿に流し、180℃に予熱したオーブンで約30分、表面に焼き色がつき、中が固まったらOK。
5)適当な大きさに切り分け、ほんのりあたたかいうちに、たっぷりのホイップクリーム、ベリージャムを添えて召し上がれ








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