第2回「菓子パン生地」へ
第3回「ハード生地」へ


春は新しいことを始めるのに最適な季節。日に日に暖かさも増してきて、パンにとっても気持ちがいいはず・・・の予定が、この日は驚くほどの冬模様。なんと、最高気温が10度未満!という予想外の天気で、生徒さんたちも厚手のコートが手放せません。それでも、エプロンをつけて厨房へ入れば、気合は充分。早速、栄徳シェフを囲んで実習がスタートしました!



「今日は基本の生地を3種類学びます。シンプルな「角食」、国産小麦を使った「全粒粉入り食パン」、それからほんのり甘めの「ロールパン(ミルクハース)」。まずは3種類の生地のミキシングを連続してやって、それから順に、3種類を分割、成形・・・というように並行して作業を進めていきます。細かい時間配分などは、初めに書いておくとわかりやすいです。そう、こんなふうに」。
と、栄徳シェフ。作業をスムーズに進めていくためには、まず、1日の予定を立てること。これも大事な仕事なのです。ホワイトボードには、10時10分にロールパンのミキシングを始めて、10時25分に角食、10時45分に全粒粉、そのままパンチ、分割、成形、焼成と今日の予定がびっしり。ん?これって、もしかして・・・?
「はい、見てのとおり。休みなしです(笑)」
そう、パンは待ってくれません。パン職人を目指すなら、何よりもパンの都合を優先しなければ!



まずはロールパン生地のミキシングから。ミキサーボウルの中に牛乳、卵、生クリーム、コンデンスミルク、砂糖、塩、パートフェルメントを入れ、その上から小麦粉とドライイーストを重ねます。そして最後にバターを。何気なく入れているように見えますが、実は、これにもわけがあるようです。
「イーストは塩と合わさると発酵力が鈍ってしまうので、必ず分けて加えます。それから、粉を始めに入れてしまうと、ボウルのまわりにくっついてしまってミキシング時間が長くなってしまうんです。パンの国家試験では、順序を間違うと減点されてしまうんですよ」。
なんと、パンにも国家試験があるなんて驚きです!

ところで、レシピに書いてある「パートフェルメント」。これは何でしょう?
「これは、あらかじめミキシングしておいたフランスパン生地を3時間発酵させたもの。何故入れるかというと・・・食感のためなんです。実は、僕の作りたいロールパンは、セミハードタイプ。ロールパンとフランスパンの中間くらいで、ふんわりしつつさっくりさせたい。そんな時にはパートフェルメントを入れると効果がありますよ」。
一見シンプルなロールパン生地にも、さりげない工夫が。プロのコツを感じます!



ミキシングはまずは低速で、が基本。徐々に2速、3速へと速度を上げていきます。
「初めの3分は『ピックアップ(つかみどり)』という段階。粉がまんべんなく水を吸えるようにゆっくりまわします。続けて『クリーンナップ(掃除)』段階へ。ほら、グルテンができ初めて少し粘りが出てきたでしょう?それから『ディベロップメント(結合)』段階ではかなりグルテンが出て、滑らかに。最終的には、艶が出て汗をかいたような生地になればOKです。こんなふうに」。
見ると、うす〜く伸びて艶々。いかにも膨らんでくれそうです。シェフがやっていたように、ミキシングは何よりも目で見て触って判断するのが一番。レシピに書いてある時間は、あくまでも目安にしか過ぎません。



ボウルからバンジュウへ生地を移して、温度をチェック。こね上がりは、26〜27℃が理想ですが・・・?温度計は25℃、ほぼ理想どおりです!
「理想の温度に捏ね上がるように、ミキシングの前には、必ず水分の温度をチェックします。このロールパンなら、牛乳、卵、生クリームが水分。そこで、店で作る場合には、卵と生クリームを冷蔵庫に入れて温度を一定にしておけば、牛乳の温度を測るだけで大丈夫。季節によって室温などの環境が変わっても、牛乳の温度で調整すればいいわけです。ちなみに、今日は、牛乳が22℃でした」。
店で作るパンは、できるだけ効率よく、かつ安定したものを作らなければいけないのです。



ロールパンの発酵を取っている間に、次は角食。レシピを見ると、「生イースト」とあります。ロールパンにはドライイーストを使っていましたが、今度は何故生イーストを?
「生イースト1に対して、ドライイーストなら3倍量使います。この比率さえ覚えておけば生でもドライでも、どちらを使っても大丈夫。ただし、生は匂いが強いので、使う小麦を選ぶことも。今回のようにカメリアなどの外麦(外国産小麦)を使うならいいですが、内麦(国産小麦)の場合はドライがいいですね。生の匂いの強さに負けてしまうことがあるので」。香りの違いの他、生の方がふわっと上がるという説もあるとのこと。基本的には、好みで選べばいいようです。



角食レシピの中でもうひとつ気になっていたのが、マーガリンにバターを配合した「コンパウンド」。バターだけ、またはマーガリンだけでもいいような気がしますが・・・?
「バターは香りと風味が豊か。マーガリンはショートニング性が優れているのでサクミが出る。両方のいい点を活かすためにコンパウンドを使いました。食パンってそのまま食べることも、そして焼くことも多いでしょう。ようは風味と食感のバランスだと思うんです。自分はどんな食パンを作りたいかイメージしながら配合を考えるといいですよ」。シェフが使っているコンパウンドは、「リラナチュラル オーベルニュCF40」。フランス・オーベルニュ地方の発酵バターが40%も入っているため、風味がいいのが特徴です。




ロールパンにはバター、角食にはコンパウンドときて、最後の全粒粉入り食パンでは、「ラード」が登場しました。きっと、これにもわけがあるはず!
「バターだと香りが強すぎるんです。せっかく全粒粉を入れるなら、その香りを活かしてあげたいでしょう。ショートニングでもいいのですが、ラードの方がコクが出るからお勧め。ただし、おいしいラードを使うこと」。そして、お店では自家製粉した全粒粉を使っているというから贅沢!香りが全然違うそうです。また、全粒粉は油分があるので酸化しやすいという欠点が。早めに使い切るのもポイントです。



発酵させた生地は、途中でパンチを入れます。パンチとはガス抜き作業のこと。それほど強い力は必要なく、生地を半分に折りたたむ作業を数回行います。お店では生地量がとても多いため、いちいち作業台に取り出していては大変。そんな時には、バンジュウの中でササッと済ませてしまうのがコツ。




生地を分割してベンチタイムをとったら、いよいよお楽しみ?というより恐怖?の成形タイム!



「とにかく手早くやることが大切。よく、水の上を歩くような感じでって言いますけど(笑)。
まずこうしてこうして、それから△◎※□☆・・・」。




シェ、シェフ、それでは早すぎてよくわかりません。もう少しゆっくり・・・。
「あ、はい。こ・う・し・て、こうして△◎※□☆・・・」。




や・やっぱり早い! しかも、シェフがやるといとも簡単そう。ところが、実際にはそううまくはいきません。



「こう・・・だったかな?」
「確かここで・・・」
「あ、くっついてきちゃった!」
そうなんです。ゆっくりしていると生地が台にくっついてしまうのです。慣れていない上にベタベタしてくるものだから、もう大変!



生徒さんの中には、かなり作りこんでいて成形上手な人もいますが、大半は初心者。そんな人たちのために、シェフから嬉しいアドバイスが。
「まずは基本の丸めからやってみましょう。練習用にマジックを使うといいですよ。丸を作ったら、中心部分にマジックで印をつけて、この中心が真ん中からずれないように丸めてあげると・・・ほら、底の中心部分にお尻ができます。これがうまくできた証。あ、もちろん、この生地は食べちゃダメですよ(笑)」。
そうか、小さく丸めるだけだったら初心者でも大丈夫。折りたたんだり型に入れたりする時には悪戦苦闘していた生徒さんも、この時ばかりはひと安心です。




ところが。意外とそうではなかったことが後で判明。それは、2次発酵が終わって、表面に卵を塗ろうという時でした。
「これを見て。これは綺麗だけど、こっちは表面がアバタになっちゃってる。成形のときに生地が泣いてしまったからですね」
泣くというのは、成形の時に無理な力がかかったりして生地が傷んでしまうこと。痛むと、発酵して膨らんだときにその部分が広がってきて、表面がざらついてしまうのです。また、成形するときに力がかかりすぎると、ガスが抜けて重く詰まったパンになってしまうし、逆にガスが抜けずに膨らみすぎていると、目が粗くなってしまうと言います。たかが丸パンといっても、おいしく作るにはやっぱり経験あるのみ!



型に入れて2次発酵させた角食は、型の8割まで膨らんだら焼成の合図。蓋をかぶせていよいよオーブンへ!
「溶岩のオーブンは遠赤外線効果で中心部からも熱が入るから、焼成時間が短くて済みます。例えば40分かかるところを30分で焼き上がれば、その分、水分の蒸発が防げるというわけ。だからしっとりするんです」。



およそ30分後、ついに角食が焼きあがりました。ほわんと湯気が立ち上り、厨房中に香ばしい香りが立ち込めます。さ〜て、皆さんのパンはどんな具合になのでしょうか?ドキドキの瞬間です!
「うん、なかなかいい感じ。角が少し丸みをおびているでしょう。これは発酵がちょうど良くできている証拠。もし角がかくばって尖っていたら、過発酵なんです。これならお店に出しても大丈夫かな」。
やった!シェフから合格点をもらえて、ほっと一安心。他のパンも次々と焼きあがり、できたてのパンの香りで満たされます。



最後はシェフを囲んで復習タイム。今日一日のおさらいをします。
「ロールパン生地は生クリーム入りなので、乳風味が楽しめます。もっと強調したければ、脱脂粉乳を入れてもいいですよ」。
「全粉粒入りのパンは、山食が向いています。蓋をして角食にしてしまうと、穀物臭がこもってしまうので」。
「食パンは毎日食べたいものなので、あまり甘すぎない方がいいかなと僕は思っています。糖分が粉に対して7%入ると甘くておいしくなるけれど、うちではちょっと控えて6%にしているのはそのためなんです」。
素材、配合、製法の違いを見ながら、何故なのかを考えることはとても大切です。考えることで、自然と自分の作りたいパンのイメージが沸いてきたらしめたもの。生徒さんたちがどんなパン作りを目指すのか、これからが楽しみです!





今回学んだパン





ロールパン(ミルクハース)

ふんわりやわらかくて優しい食べ心地ながら、歯切れがいいのが特徴。ミルクの風味と自然な甘みが優しく全体をまとめてくれます。食感といい味わいといい、子供から大人まで安心して食べられるソフト系のパン。小さく形作って白く焼き上げれば、サンドイッチにも最適です。ポテトサンドなどにしてもおいしそう!







角食

しっとりとしてやわらかく、歯応えが優しい印象。ところが、トーストすると驚くほどサクサクサクッとリズミカルな食感に変身! どちらも捨てがたいおいしさです。ほんのりと甘さを感じるパンは、毎日飽きずに食べ進められるタイプ。お店ではバーガー用のパンとしても大活躍しています。ランチにはこの生地を使った卵サンドが登場しました!






全粒粉入り食パン

蓋をせずに焼き上げた山型食パンだから、伸びがあります。やわらかくて歯切れのよい生地は、トーストすると表面はザックリ、中はふんわり。全粒粉の香りが程よく、噛んでいくうちにじんわりと旨みが広がっていきます。隠し味的に使用したラードはコクと旨みを、蜂蜜は優しい甘さをプラス。入れているのはほんのわずかでも、その効果はしっかり現れています。






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