第1回「基本の生地づくり」へ
第3回「ハード生地」へ


やっと春めいた暖かさが感じられるようになった5月。
第2回目の石窯パン教室は、爽やかな青空に迎えられての開催となりました。
今回のテーマは「菓子パン生地」。
前回教わったシンプルな食事パンに加えて、甘くリッチな生地も習得できれば、まさに鬼に金棒。
さて、今回はどんなパンが登場するのでしょうか?



「おはようございます。今日は、ブリオッシュ、2種類のクロワッサン、それからクリームパンを作ります」
ホワイトボードを見上げると、今日もなかなかハードスケジュールな予感。さぁ、気合をいれて頑張りましょう。



と、いきなり栄徳先生から驚きの告白が。
「実は、ブリオッシュってパサついているから、あまり好きじゃなかったんです」
え!?でも、確かにパサついたブリオッシュって多いですよね。
「フランス人はそのパサ感が好きらしいんですけれど、日本人はやっぱりしっとり感を好むと思うんですよね。その結果、誕生したのがこのブリオッシュなんです」
ご飯で育った日本人は、やっぱり“しっとり&もっちり”が大好き。とはいえ、どうやってしっとり感を出すのでしょうか?
「ポイントはパネトーネ菌を使うこと。今回は、一般の方にも手に入りやすいパネトーネマザーを使って作ります」
パネトーネマザー・・・。取扱いが面倒そうな気がしますが、大丈夫なのでしょうか?
「成分を見るとわかりますが、パネトーネマザーにはインスタントイーストが約2割含まれています。これさえ理解していれば、いろいろな生地に置き換えて作ることができますよ」
それでは、しっとりのコツを見逃さないよう、しっかり勉強していきましょう。



「しっとりさせるためには、配合も重要。卵白を入れるとパサつきやすいので、卵は卵黄のみ。それから、ハチミツも加えます。普通、ハチミツを入れると生地がだれやすいのですが、これなら大丈夫ですよ」
そういって、おもむろに取り出したのは、お馴染みのサクラ印のハチミツ。でも、よく見ると「BK−3ふんわり 〜パティシエの悩みを解決〜」という文字が。さらに、説明文を読むと、“ハチミツに含まれる酵素(プロテアーゼ、アミラーゼ)の活性を抑え、スポンジなどをふんわりと仕上げる新機能ハチミツです”とあります。なるほど!これなら、生地のダレやふくらみを気にすることなく、ハチミツが使えそうです。

「サクラ印ハチミツ BK-3ふんわり」


「まずは、ミキシングから。このブリオッシュは比較的固めの扱いやすい生地ですが、固めの生地ほどミキシングで生地温が上がりやすい。だから、粉などの材料もすべて直前まで冷蔵庫で冷やしておくようにします」
1速で3分捏ねたら、2速で10分。バターを入れる前に、ある適度しっかり生地を作ってしまうのもポイントです。
「低速でバターを馴染ませると時間がかかってしまうので、最近は高速で素早く入れるようになってきました。それから、風味をいかすため、バターを入れてからはあまり捏ねません」
バターを低速の状態で入れると倍くらい時間がかかってしまい、作業性も良くないというのも理由のひとつ。ちなみに、バターを入れた後の捏ね時間は、バターが生地と馴染んでから始めます。

バターもたっぷり。冷たいけれど、指で押せるくらいが目安です


さて、生地が捏ねあがりました。やさしいたまご色が、とてもおいしそう。今日はこの生地で、“ブリオッシュ・ア・テット”“シャポー”“パネトーネ”の3種類を作ります。

“ブリオッシュ・ア・テット” “シャポー”の生地

ドライフルーツをたっぷり加えた“パネトーネ”の生地


続いては、菓子パン生地の仕込み。「ブーランジェリ ラ・テール」の人気商品“幸せを呼ぶクリームパン”と“あんパン”を教えていただきます。
「菓子パン生地にはホワイトサワーを使います。このホワイトサワーを入れるのは何といってもおいしさのため。甘み、深みがぐっと増し、もちっとした食感になります」
また、値段は少し高めですが、安定したおいしさを維持できるというのも魅力だそう。
「長時間発酵をする場合は別ですが、3〜4時間でパンを作るには、こうした種のおいしさが必要だと思います」
確かに短時間で作る場合は、どうしても旨みのない生地になりがち。そういう場合は、種がものを言うというわけ。こういうコツを知っていれば、いつものパンが、ぐっとお店に近い味にグレードアップするはずです。

ホワイトサワー


さらに、粉選びにもポイントが。
「この生地を内麦で作ると、もっちりとした食感になります。でも、自分のイメージする生地は、クリームと同じ固さと口どけの良さでした。“もっちり”と“口どけの良さ”というのは、相反するものですよね。だから、この生地には、“口どけの良さ”が生まれる外麦(スーパーカメリア)を使っています」
“味の良さ”だけでなく、思い描く最終的なイメージに合わせて、粉や作り方を選ぶ。なかなか難しいことですが、プロには欠かせないセンスです。



バター以外をミキサーボウルに入れ、ミキシング。26〜27℃に捏ね上げ、バンジュウにとります。
隣では、アシスタントの高橋さんが中に入れるカスタードクリーム作りに奮闘中。牛乳2リットル分のカスタードクリームともなると、焦げないようにかき回すだけで重労働! 体力がなければ、パン職人は勤まりません。



続いては、クロワッサン生地。今日は、2種類のクロワッサンを作ります。
「外麦(ゴールデンマンモス、レジャンデール)を使った“クロワッサン”と、内麦(キタノカオリ、ホクシン)を使った“クロワッサン テラ”の2種類です」
実は、この"クロワッサン テラ"、完成までに並々ならぬ苦労があったそうです。
「内麦だと、味は良いのに、どうしてもクロワッサンにならなかったんです。キタノカオリはもち性が高いので、ふつうに作ると、どうしても層がくっついてしまうんですよね。配合や作り方を試行錯誤しましたが、なかなかうまく行かなくて、本当に苦労しました。結局、開発に2ヶ月くらいかかったかな?最終的に、層がはがれやすいような折り方を工夫することで完成したのですが、本当に大変だったんですよ」
粉の魔術師、栄徳さんをもってして、2ヶ月間もかかるとは!それぞれに、特徴の違う小麦粉は、単純に配合を置き換えればいいとはいかないのが難しいところです。



さて、クロワッサンといえば、生地とバターを折込み、層にする作業が重要。そこで、シーターの登場です。



すでに仕込んできていただいた生地を、ローラーにかけ、少しずつ薄く伸ばしていきます。あっという間に、長く薄く伸びていく生地。手でやると、なかなかこうは行かないもの。ぜひ、家庭にも1台ほしいものです。
「“クロワッサン(外麦)”は3つ折を3回。“クロワッサンテラ(内麦)”は、最初に4つ折をしたら、3つ折、2つ折と回数を減らしていきます。こうすると、はがれやすくなり、層と層がくっつかないんです」
ちょっと意外ですが、この“回数を減らす”というのが内麦を使ったクロワッサンの鍵! こうしないと、クロワッサンの肝である層ができないのです。ちなみに、発酵時間を長く取るほどパンに近く、少ないほどパイに近い食感になるのだそうです。



さて、次は分割と成形。手分けして、計量と丸めをすすめる皆さん。前回に比べ、チームワークもずいぶん良くなってきているようです。



ではまず、ブリオッシュ生地から。
「こうやって、指で生地を張らせながら丸める感じ。もちろん、両手でやってもいいんですよ」



「ブリオッシュ・ア・テットの成形は、こうやって小指を前後させて頭の部分を作ります」



「カップに入れて、頭をグッと押し込んで、出来上がり」



なるほど!きれいな、テット(頭)が出来ました。

次は、帽子の形をしたシャポー。どうやってあの、ツバ付き帽子を作るのかと思ったら・・・
「上に円を描くようにクッキー生地を絞ってください。これは、ラングドシャに似た配合の生地なんです」
滑り落ちないように、グルグルと絞ったら完成です。



クロワッサン生地は、20cm×9cmの二等辺三角形にカット。このとき、層がツレてしまいわないよう、よく切れる包丁などで、スパッとカットするのがコツ。



少し引っ張るように、クルクルと巻き、綴じ目を下にして並べます。



さらに、同じ生地でパン・オ・ショコラも。11cm×8cmの長方形にカットした生地に、ヴァローナのチョコレートを2本巻き込んで完成です。



続いて、あんパンとクリームパンの成形。
「生地50gに対して、餡35g、クリーム40gを計量してください」
たっぷりで嬉しい、なんて思っていたら、餡もクリームもなかなかの量!



「あっ、こぼれそう!」
「難しい〜」
あちこちからあがる声から、苦戦のほどがうかがえます。



ところが、心配したのもつかの間。皆さん、とても飲み込みがよく、数をこなすごとにコツをつかんでいくようす。「これなら、焼いても中身があふれ出るものはなさそうですね」

シュウマイのように包む裏技も紹介


と栄徳先生も太鼓判のきれいな形ができあがりました。
このあと、ホイロに入れて二次発酵をとりますが、クリームパンにはここで最大の(!?)ビックイベントが待っています。
「幸せを呼ぶクリームパンなので、顔を書いていきます」
絞り袋を手に、目と口を書き込む栄徳先生。あっという間に、かわいらしいニコちゃんができました。



さっそく、皆さんにも顔書きに挑戦していただきましょう。
“目と口と・・、こうかな?”



口が小さかったり、目がまん丸だったり・・・、書く人によって表情はさまざま。そのうち、驚いたように口を開けたものや、カレーパンマン風のものまで登場し、天板の上が一気に賑やかになりました。



窯にいれたら、お待ちかねのランチタイム!
今日は、トマトとツナのキッシュとスープです。



「キッシュの生地は、クロワッサンの2番生地をつかっています」
と、ランチを作ってくれたアシスタントの高橋さん。まさに、今日のテーマにぴったりなアイデアです。パイとは違う、ザクッと力強い食感のクロワッサン生地に、みずみずしいトマトが好相性。今日の生地はアイデア次第で、いろいろなアイテムに変身してくれそうです。
それから、おやつ代わりに、焼き上がったばかりのクリームパンもさっそく試食。なかのクリームがアツアツトロトロで、なんともいえないおいしさ!こんな食べ方は、パン職人だけの特権かもしれません。

もうちょっとパンを食べたいところですが、のんびりはしていられません。次々にパンが焼きあがってきました。



ふっくらと、黄金色に輝く、焼き立てのパン。どれもお店の棚に並べても遜色ないほど、立派な出来栄えです!
(残念ながら、時間の都合でぬり卵が乾く前に顔を書いてしまったクリームパンは、顔が悲惨なものも多かったのですが・・・)

最後は、今日のおさらい。今日は4種類の生地で計9種類のパンを作ったので、しっかり復習。仕込みや成形などのポイントを確認していきます。



そんな中でも生徒さんの関心は、栄徳先生の「種使い」。
パネトーネマザーは、他にどんなパンに向いているんですか?」
「ホワイトサワーは、どこで買えるんですか?」
「自分でルヴァン種を作っているんですが・・・」
と、すでに「種使い」の魅力に引き込まれているようす。たしかに、技術やレシピの違いはありますが、この授業では「種」の偉大さに気付かされることが多いようです。
「じゃあ、次回はルヴァン種の作り方をちゃんと書いてきますね」
と、栄徳先生。
次回のテーマはハード系。どんな「種使い」、「粉使い」を披露してくれるのでしょうか?
どんなパンが登場するのか、どうぞお楽しみに!





今回学んだパン




「ブリオッシュ生地」

ブリオッシュ・ア・テット

黄色味の濃い生地は、ふんわりしっとりとした食感。「しっとりしたブリオッシュを作りたかった」という栄徳先生の言葉にも納得です。ほのかな甘みが心地よく、パネトーネマザーの独特のコクが、味に深みを与えています。




シャポー

その姿から、またの名を“UFO”と言う、“シャポー”。サクッと軽く、甘みのあるクッキー生地が、しっとりとしたブリオッシュ生地とよく合っています。写真ではわかりにくいと思いますが、生地量は70gとやや多め(ア・テットは40g)。・・にもかかわらず、ペロリと食べられてしまう危険なおいしさです。




パネトーネ

ラムレーズン、オレンジピール、レモンピールをたっぷりと混ぜ込み、マカロン生地、粉糖、あられ糖をふって焼き上げたパネトーネ。しっとり深みのある生地の味と、柑橘系のフルーツの甘みがぴったり合っています。




「クロワッサン生地」

クロワッサン

フワッと上がった層の美しさは、やはり外麦ならでは。オーガニックシュガーを8%と、ハチミツを5%加えることで、ほんのり甘みのある味わいに。ルヴァンリキッドの香りが、バターの風味を引き立てます。




パン・オ・ショコラ

表面はパリン、中はフワッ。ミルキーなバターにチョコレートのほろ苦さは、まさに王道の組合せ。焼立てを食べられるなんて、本当に幸せです。




「クロワッサン テラ生地」

クロワッサン テラ

上のクロワッサンと大きく違うのは、儚いほどハラハラサクサクの皮の中に広がる、しっとりモチッとした内麦特有の食感。「普通に作ると層がくっついてしまう」という栄徳先生の言葉にも納得です。甘みを加えずルヴァンリキッドとホワイトサワーで風味を増した生地は、粉の甘みがじんわり。他とはひと味違うおいしさです。




クロワッサン テラ生地を使った
パン・オ・ショコラ

生地に砂糖の甘みがないせいか、チョコレートのホロ苦さがすっきりと感じられちょっと大人の味わい。サクサクと軽い食感も魅力です。




「菓子パン生地」

幸せを呼ぶクリームパン

サクッと歯切れの良いパン生地の中には、たっぷりのカスタードクリーム。顔の部分も、中と同じカスタードクリームでできています。見れば思わず微笑んでしまうこのクリームパンですが、食べればさらに幸せが深まること間違いなし。お子さんと一緒に作っても楽しそうですね。




あんパン

ふっくら軽い生地は、口どけのよさが抜群。卵黄や生クリーム、牛乳にホワイトサワーなども入ったリッチな生地ですが、餡でもクリームでも、中に入れるものを選ばないシンプルさも特徴です。基本の菓子パン生地として抑えておけば、パン作りの幅が広がります!








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