第2回:酵母使い
第3回:ライ麦のパン

〈作るパン〉
・ペイザンヌ
・フォカッチャ



第1回目のテーマは、人気の国産小麦

応用コース第1回目のテーマは、国産小麦です。数年前に比べるとかなりポピュラーな存在になってきた国産小麦。製菓製パン材料店でも、気軽に手に入るようになりました。安全面はもちろん、味や食感でもファンの多い国産小麦ですが、単に従来のレシピにある小麦粉(外国産)に置き換えればいいかと言うと、そうでもありません。想像していたよりもちもち感が強かったり、膨らみが悪かったり・・・。そうなんです。国産小麦で、自分の思い通りの食感を作れる、これこそが応用コースの狙いなのです。




では、森先生 よろしくお願いします。
「おはようございます。今日は国産小麦を使ったパンがテーマです。実は、お店ではほとんど国産小麦を使わないので、今回のために色々と勉強をしてきました」
え?森先生、大丈夫なんですか?
「何度か試作をしたのですが、かなりいいものが出来たんです。これを機にお店でも使ってみようかと思っているんですよ」
巷ではすっかりポピュラーな存在の国産小麦ですが、入手が難しく、力も弱い・・・といった様々な理由から、意外に敬遠する職人さんも少なくないのです。かの志賀シェフでさえ、数年前まではアンチ国産小麦だったことを思えば、当然なのかもしれませんが・・・。
そんな訳で、今日は試行錯誤の上に完成した国産小麦を使った〈ペイザンヌ〉と〈フォカッチャ〉を教えていだだきます。



「元々、内麦はたんぱく質が少なく、力が弱いのですが、最近では酵素やグルテン、モルトなどを添加した使いやすいタイプも増えています」
色づきも悪く、食感もポソポソしがち・・・。森先生も以前はそんな印象があったようです。
「最近は、色づきも良くなり、ボリュームが出やすいように改良されたものがほとんど。かなり使いやすい仕様なっています」
製粉会社の努力により、国産小麦事情もかなり進化しているようです。
「国産小麦を使う場合、ストレート(内麦100%)でやりたいという人が多いと思いますが、おすすめはブレンド。匂いが強く、ヌカ臭くなりやすい傾向もあるし、収量も少ないので、この方がいいと思います」


ペイザンヌ用の木のケース。ポイントは、使う前に水に漬けておくこと。こうすると、木屑独特の匂いが抑えられるのだそうです!



それではまず、ペイザンヌから。
「使う内麦は、内麦強力粉(タイプER ※江別製粉)、内麦石臼挽粉(KJ-15 ※熊本製粉)、内麦全粒粉(内麦全粒 ※第一製粉)の3種。これに、カナダ産の超強力粉(ゴールデンマンモス ※第一製粉)を加えます。この超強力粉は食感のため。皮が薄く、パリッとした食感になります」
レシピをひも解くと、力の強いカナダ産の外麦で食感を補い、内麦と石臼挽き粉で風味を出し、ペイザンヌらしい田舎っぽさを全粒粉で・・という具合。まずは粉の特徴を知ることが、レシピを組み立てるコツといえそうです。
「そうですね。粉の選び方のポイントは、思い描くパンから逆算すること。こういう食感にしたいとか、内層はどうしたいとか・・・。粉には色々な特徴があるので、そこから選ぶようにするといいと思います」
簡単なようで、なかなか奥が深そうです。


ミキシングの基本は L2分、M4分

「ミキシングは、低速2分、中速4分。『ルボワ』ではこれを基本にしています」
ところが、中速の2分を過ぎたあたりでミキシングを終了。あれ?もう終わりですか?
「今日はかなり温度が高いので、2分でストップしました。こういう場合は、パンチで調整します」
捏ね上げ温度は、27.5度とやや高めになりました。

低速2分終了→ミキシング終わり。かなり薄く伸びるようになりました


「この生地は室温で発酵を取りますが、今日は同じ生地で低温長時間発酵のタイプも作ります。ちなみに、低温長時間発酵の生地は、ミキシング後、冷蔵庫で12時間置いています」
ストレート製法の生地は、60分ほどで一度パンチを入れ、計1時間半ほど発酵を取ります。

水分が70%入ったペイザンヌ生地。
透明感と弾力があります


一方、低温長時間発酵の生地は森先生が昨晩仕込んでくれたものを使用。
「これが、冷蔵発酵した生地です」

表面に水分がキラキラと光る低温長時間発酵生地


冷蔵の場合、発酵の目安は1.3〜1.5倍程度のボリューム感。ひんやりとした生地は適度に張りがあり、意外に扱いやすそうです。



生地を逃がす。この感覚がつかめれば一人前

分割、ベンチタイムを終えたら成形です。
「まずはペイザンヌから。ケースに入れて焼成しますが、最初の丸めはとても重要。しっかり生地を張らせるようにしてください」
基礎コースから、何度も言われているのが『張らせる』こと。基礎、応用に関わらず、どのパンにも共通する大切なポイントです。
しっかり張らせるように丸めた後は、軽く霧を吹きライ麦の粗挽きをまぶします。

型に入れるとはいえ、しっかり締めて張らせるように!

霧を吹き、ライ麦の粗挽きを付けます

木型にいれます



もうひとつの成形は、フィセル。
「長さは約25〜26cm。伸ばすのではなく、台と手のすき間から生地を逃がすようなイメージです」
逃がす・・・? ちょっとピンとこない表現に聞こえるかもしれませんが、先生の手つきを見ていると、確かに手と台の間から生地が逃げていくよう。無理に押したり、伸ばしたり、というストレスがなく、しかもとても簡単そう!瞬く間に生地が細長く伸びていきます。

動きが速いので写真がブレてしまいました(すみません)。それくらいあっという間に生地が伸びていきます!


頭では理解しても、そう簡単には行かないもの。当然のことですが、簡単に見えて、技術と経験が必要な成形です。
とはいえ、生徒の皆さんもかなり上手。見事、フィセルの成形ができました。




森さん流のフォカッチャとは?

続いてはフォカッチャ生地です。
「イタリアで食べたフォカッチャは水分が少なくスカスカとした食感で、おいしくなかったんですよね。それで、フォカッチャらしさは守りつつも、自分がおいしいと思う食感に改良しました」
確かに、定番といわれるアイテムにはいくつかの定義があり、ベースとなるレシピもあります。でも、それをそのままうまく作れるだけではプロとはいえません。自分がおいしいと思うパンへと高めること、これこそがプロの心意気なのです!



では、その極意とは?
「味、食感、香りを想像すること。そこから何を入れるかを決めていきます」
ということで、今回のレシピを見てみると・・・。
粉は、内麦強力粉(ハルユタカブレンド ※江別製粉)、内麦全粒粉(内麦全粒※第一製粉)。水分は55%です。
「水分はこれ以上多くすると、歯切れがサクッとせずホワッという感じになってしまいます。それから、オリーブオイルに関しては、風味の弱い外麦の方がしっかりと出ますね」



ひんやり生地を分割、成形

“バタン、バタン”
ミキシングボウルの中をのぞくと、かなりボウルの中で生地が暴れている様子。
「かなり固めでベーグルに近い生地です」
低速2分、中速4分。かなり扱いやすそうな生地が出来上がりました。
今日は、時間調整のため冷蔵庫で発酵を取ります。

約3時間後、冷蔵庫から取り出したひえひえの生地を分割。色々なパンを焼かなくてはいけないお店の場合、こうやって冷蔵庫を使ってタイミングを調整するのも重要なポイントです。ちなみに、いくら冷蔵庫といっても、この生地の場合は3〜4時間までと思っていたほうがいいようです。
「出したての生地は冷たくて固いのですが、イーストが0.8%と多い生地なので、すぐにゆるみはじめますよ」
そうです、油断は禁物です!



そして、成形です。


「麺棒で伸ばします。麺棒は、伸ばす向きによって力の入り方が変わるので、常に同じ方向に。手ではなく、生地の向きを90°ずつ回転させて伸ばすようにします」


楕円形に伸ばした生地の上に、ザワークラウト、ソーセージ、黒オリーブ、セミドライトマト、さらにチーズを乗せ、二つに折りたたみます。うーん、なんともおいしそう!

楕円形に伸ばし・・・ 中央に具材を乗せます。

これだけでも具だくさんですが、
さらに、チーズをON!
半分に折り返します。


約30分ほどホイロを取ったら、仕上げの作業。指に水をつけ、綴じ目をグッグッと押します。


平らなフォカッチャは、ローズマリーやオリーブをグッと押し込むように。最後に霧を吹いて、焼成です。




今日のランチは2種類のケークサレと焼き立てのフィセル。なんて贅沢なひと時!オリーブのコクが効いておいしかったです




ストレートと低温長時間発酵の違いとは・・・?

すべてが焼き上がったところで、気になるのがペイザンヌ。基礎コースでも少し勉強しましたが、はたして今回もストレートと低温長時間発酵に違いが出るのでしょうか?
焼き上がりを見ると、多少ボリュームが違うものの、そこまで変わらないようですが・・・。

左:ストレート、右:低温長時間発酵


さっそくカットして断面をチェック。
・・・む?確かに様子が違います。低温長時間発酵の方は、全体的に生地の色が濃く、クラスト部分が厚い焼き上がり。そして、写真ではわかりにくいと思いますが、しっとりみずみずしい質感が際立っています。

どうでしょう、違いがわかりますか?


「低温長時間発酵の生地は、入れるイーストの量が半分程度。時間をかけてゆっくり発酵するので、その分、伸展性が弱くボリュームが出にくい特徴があります。それから、グルテンが伸びきる前のしっかりとした状態で窯に入れるので、結果、クラストが厚くなります」
チーズだって味噌だって、発酵時間が長い方が旨みは強いですよね?
低温長時間発酵では、イーストの活動を抑制した状態でじっくり時間を取ることで、発酵による粉本来の旨みが引き出されるのが大きな特徴。時間はかかりますが、前夜に仕込んで翌朝から取り掛かれるのも利点です。
「生地の体積が広がらない分、味が強く、濃くなります。それから、生地中に糖分が多く残るので、クラストもクラムも色が濃くなりますね」



いざ、実食!

何はともあれ、食べてみるのが一番!ということで、試食タイムです。


『あ、甘い!』
『食感がいい。皮がバリッとして、クラムはモチッとしてる』
『味が濃くておいしい』
と、圧倒的勝利を収めた低温長時間発酵のペイザンヌ生地のフィセル。



ところが、型入りのペイザンヌを食べると・・・。
『うーん、これは意外にストレートの方が合うみたい』
『ちょっと食感が重たいかなぁ』
と、さっきとは別の反応が。



生地の膨らみが少ない分、水分の比率が高くなる低温長時間発酵の生地。味、食感、作業性・・・そういった要素を吟味してパンを作る。これも、プロの技量のひとつなんですね。

最後は復習を兼ねてお勉強タイム。応用コースだけあって、かなりマニアックな質問も飛び交います


レシピ、粉選び、酵母に製法、成形に焼成と、数え切れないおいしさの要素がパンの中には詰まっています。それをひとつずつひも解いて、理想のパンに近づければ・・・。
次回のテーマは、天然酵母。どんな内容になるかどうぞお楽しみに!




今回作ったパン


ペイザンヌ生地(ストレート、低温長時間発酵)
ペイザンヌ、フィセル、プチパン


発酵方法による違いはありますが、しっかりと粉の風味や香りが楽しめる生地でした。また、同じ生地でも、型に入れて焼くのと、フィセルに成形するのとで、食感や風味の広がり方などにずいぶん違いがあらわれたのも興味深い点。自分の好みの食感を、"型"でコントロールするというのもひとつの方法ですね。


フォカッチャ生地  2種
サクッと歯切れの良い食感のフォカッチャ。最後に刷毛でオリーブオイルを塗って仕上げることで、ツヤツヤと表情がよくなり、さらに乾燥も防げるそうです。外国産小麦の場合と違い、オリーブオイルに負けない粉の風味が楽しめるのが特徴。シンプルに仕上げて、食事に合わせるのもいいですね!







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