第1回 基礎の生地へ
第2回 リッチな生地へ

〈作るパン〉
・ライ麦パン生地
・フランスパン生地
・ノア&レザン:カンパーニュ生地



基礎コース最終回を飾る今回のテーマは、ハード系の生地です。
パンの道を歩む人なら、お店に並んでいるようなバリッと格好いいバゲットを、自分で焼いてみたいと思うのではないでしょうか?
バゲットの生地は、粉、水、酵母、塩という極めてシンプルなものですが、シンプルなだけに、実はとても難しい生地なのです。
ということで、今回も気を引き締めて行きましょう!加藤先生、よろしくお願いします。



「バゲットにも色々な生地がありますが、今回は基礎コースなので成形しやすい生地にしました。発酵も短めですが、その代わり、熟成させた“発酵生地”を入れているので、おいしいものが出来ると思います」
最近では、粉にこだわったり、低温で長時間発酵させたり・・・と色々なタイプのバゲットが出ていますが、それは応用編。まずは基本をしっかりとマスターすることが大切です!

フランスパン生地の材料は、粉(オーベルニュ)、イースト、水、粗塩、モルトエキス、そして発酵種。本当にシンプルです


まずはミキシングから。すると、すかさず加藤先生から問題が。
「今日は室温23℃だから、仕込み水は何度にすればいい?ほら、みんな計算して」
えーと、粉は24℃で捏ね上げ温度は25℃、ミキシングの摩擦熱が加わって・・・
「18℃です!」
パチパチパチ。皆さん、本当に素晴らしい!
第1回目で習った、仕込み水の温度を出す方程式が実際に役立っているようです。これさえ覚えておけば、夏でも冬でもOK。南国でパンを作ることになっても安心ですね。

目標の捏ね上げ温度は25℃。
ハード系は低めにもっていきます


続いては、ライ麦パン生地です。
「今回はリクエストもあったので、ポーリッシュ種を使って仕込みます。最小限のイースト(0.05%、夏場は0.03%でもOK)のイーストで長時間発酵させた液種を使う方法で、19世紀にポーランドで生まれ、その後、ウィーン、フランスへと伝わったといわれています」

17〜18時間発酵させたポーリッシュ種。トロトロとしたゆるい液状で、風味豊か。大きな気泡ができています

さらに、今回はもうひとつユニークな食材を使用します。ライサワーの代わりになるものだそうですが・・・


ジャーン!ピルクルです。

実は、今回お手伝いをしていただいている佐々木さんのアイデアだそうですが。
「日本に住んでいるドイツ人の方に聞いたんですよ。ライサワーを起こすのは手間がかかるから、家庭でドイツパンを作るときにはピルクルを使うそうです」
と佐々木さん。
なるほど。本場ドイツの方がやっているんですから、間違いはなさそうです。確かに、乳酸菌の効果と風味はありそうですね。

加藤先生によれば、
「ライサワーは、本来、1週間くらいかけて乳酸菌、酢酸菌、天然酵母を作るので、手間もかかるし、材料も必要になります。市販のサワードゥもあるけれど、ちょっと人工的な匂いがあるから、こっちの方が安全でしょう」
ということでした。


フランス粉 45%、強力粉30%、ライ麦25%の
生地。ほんのりグレー味を帯びています


ここで再び、加藤先生から問題。
「皆さん、レシピを見て何か気づきませんか?」
うーん、何だろう? ピルクルとポーリッシュ種のほかには、不思議な材料は見当たらないし・・・。
「イーストの量なんです。今回使うのは、ポーリッシュ種に入れた0.05%のみ。発酵種にも入ってはいますが、他に比べれば驚くほど少ないでしょう?これでもね、パンは膨らむんです」
確かに、先ほどのフランスパン生地に入れたイーストは0.6%だし、2回目で習った菓子パン生地やブリオッシュには2%も入ります。ポーリッシュ種や中種の力ってすごいんですね。
「このパンは、冷蔵庫に入れておけば3週間経っても大丈夫。短い時間で作ったパンは、すぐにカビたりパサついて食べられなくなってしまうけれど、時間をかけて作った中種を入れた生地は、その分持ちもいいんです」
イースト量を増やせば、発酵時間も短いし手軽です。でも、旨みや日持ちという点でも短いのは悲しいこと。何ごとも、ゆっくり丁寧に、時間や愛情をかけてあげたいものですね。

暖かかったこの日は、90分の予定を早め60分でパンチ。3回目ですから、パンチだってやっていただきますよ〜

3つ目のカンパーニュ生地も、もちろんひと手間かけて。粉の50%で中種を作っておき、発酵種も30%加えます。

レーズン、オレンジ、クルミを合わせたカンパーニュ生地。ライ麦全粒粉が10%入っています

「先生、中種って常温発酵でいいんですか?それとも、冷蔵庫ですか?」
と生徒さんから質問が。

「わたしはね、常温にこだわっているんです。というのもね、冷蔵庫っていうのは、開けたり閉めたりすることもあるし、意外にバラつきがある。それに、冷蔵庫が狭いパン屋さんも多いんです」
これまでも、常温発酵が多いと思っていたら、その裏にはそういう理由があったんですね。仕事で国内外を問わず、様々なパン屋さんで指導に当っている加藤先生ならではのポリシーです。
「冬の寒い時だけは、湯たんぽで対応します。湯たんぽは便利ですよ」
何度で何分という数字だけで覚えるのではなく、何が必要かを考える。これこそ、パン屋さんに必要な知識なのでしょう。

家庭にミキサーがないという方のために、今回は手仕込みのフランスパン生地も並行して作りました

ほとんど捏ねないので、つながりがないように見えますが。どんな生地になるのでしょう?



さて、続いては分割と成形。今回もたくさんありますので、皆さん、頑張ってくださいね。

フランスパン生地に粉ふき芋にしたジャガイモを練り込み、たまねぎ、パプリカ、ピーマン、コーン、チーズを加えた野菜パン。かなりやわらかいので、計量したまま天板に乗せます

フランスパン生地の上に、ベーコンと黒胡椒をのせたエピ

フランスパン生地の王道、バゲットの成形

チーズフランスは、こんな大きなチーズを3つも包み込みます。贅沢!

イカ?タコ? いいえ、違います。これはカマンベールチーズを包み込んだライ麦生地を、溶けるチーズの上に乗せたもの。出来上がりがどんなふうになるのか楽しみです



中でも皆さんが一番苦労していたのは、やはりバゲットの成形。ただ伸ばせばいいのではなく、適度に気泡を抜き、生地を張らせながら伸ばすのがポイント。これが、なかなか難しいんですよね。


特訓の成果あり?なかなか美しく出来あがっています

成形も重要ですが、クープの美しさも見た目を大きく左右するポイントです。焼き上がったバゲットのクープが斜めに開いているからといって、その通りに刃を入れてはダメ。コレも、ちょっとしたコツがいるんです。

先生のお手本。スッスッと4本のクープを入れていきます

生地が釣れてしまうので、意外に思い切りが必要。頑張って!

チーズフランスは、トップをハサミでカットします

粉をふり、格子状にクープを入れた、カンパーニュ ノア&レザン

カンパーニュ ノア&レザンの生地に、特製クリームチーズを包んだもの。これもハサミでカットします

パン生地がオーブンに入る合間を縫って、焼いたのがこれ。加藤先生が前日に生地を仕込み、朝一で焼いてくれた特製バゲットで作ったタルティーヌです。色も鮮やかで、おいしそう!

バゲットを半分にカットしてソースを塗り、ベーコンやソーセージ、マッシュルーム、パプリカ、チーズなどをトッピングして焼き上げました


ちなみに、これは加藤先生のスペシャリテでもある、長時間発酵バゲット。みてください。時間をかけて発酵を取っているので、透明感のある大きな気泡がたくさんできています。


ということで、お待ちかねのランチタイムです!


本日のランチは、ソースの違う2種のタルティーヌとパナデリア三宅特製の枝豆のスープ。バゲットをそのまま食べるのもいいですが、こんな風にアレンジしても楽しいですね


ランチタイムといっても、パンは待ってくれません。
「はい、焼きあがったよ〜!」


さて、今日もたくさんのパンが焼きあがりました。





今回作ったパン


ライ麦パン生地のアレンジ

ピルクルが入るので、どんな味?と思いましたが、言われなければまったくわかりません。北海道産のライ麦を使った生地は、ライ麦特有のクセがなく、丸みがあって食べやすいおいしさ。翌日以降もしっとり感があるのは、ピルクルとポーリッシュ種、そして発酵種のおかげでしょうか。シンプルながら、味わい深いおいしさでした。



フランスパン生地のアレンジ


ご覧ください!プロ顔負けの美しいバゲットが出来上がりました。 ただ、正直に言うと、ややイビツなものや、横が裂けてしまっているものも、少しありました。バゲットの場合、分割後の丸めの段階から、成形を意識した作業が必要になるそうです。やはり難しいパンですね。 石窯で焼くその食感は、周りのクラストはバリッと香ばしく、中はふっくら。それほど長く発酵を取らないのに、味に物足りなさを感じないのは、やはり発酵種のせいでしょうか。 アレンジの野菜パンは、ジャガイモの効果でしっとりやわらか。フランスパン生地とは思えない食感になっていて、なかなか勉強になるアレンジでした。



ノア&レザン:カンパーニュ生地のアレンジ


レーズン、オレンジ、クルミ 合わせて95%ほど入った生地は、甘みがあって風味豊か。加藤先生流にクルミはしっかりローストしてから入れたので、香ばしいコクが楽しめます。生地の部分はサックリ歯切れよく、表面をカリッと焼いてチーズを乗せてもおいしいです。


 



4月からスタートした基礎コースは今回で終了。時間にすれば短いかもしれませんが、分割し、丸め、成形し・・・と、触れた生地の量は相当なものだと思います。
この先は、もう一回復習してみるもよし、自分でアレンジを加えるもよし。
この経験を糧にますますパン作りの腕を磨いていただければ、パナデリアとしても嬉しい限りです。
秋からの応用コースでは、小麦粉や酵母にこだわったより高度なパンを教えていただく予定ですので、どうぞご期待ください!



石窯パン教室トップに戻る