4月に開講したパナデリア石窯パン教室・基本コースもついに最終回を迎えることになりました。(第1回目 第2回目 第3回目
第4回目となる今回は、ラストを飾るにふさわしいスペシャルゲストが登場。そのゲストとは・・・たまプラーザで人気のブーランジェリー「パンステージ・プロローグ」のシェフ、山本敬三さん!石窯を使って毎日たくさんのパンを焼き上げているという山本シェフ、そのシェフにバゲットを、そして加藤先生にオーバーナイト法のレトロフランス、天然酵母を使ったバタールとノア&レーズンを教えていただきます。バゲットに天然酵母と聞くと、なんとも難易度が高そうですが・・・いったいどんなパンが出来上がるのでしょうか?!

レーズン種を使った天然酵母(4番種) 天然酵母生地のミキシング。弾力のあるしっかりとした生地


「まず、これを見てみて。いい具合に発酵していると思いますよ」

そう言って加藤先生が取り出したのは、天然酵母であるレーズン種。レーズン、水、そしてほんの少量の砂糖を合わせて3〜4日発酵させた種は、ほのかに発酵したワインにも似た香り。このレーズン液種を裏ごしした1番種にフランス粉を合わせてミキシングした後、8〜10時間発酵させたものが2番種。更に2番種にフランス粉、塩、モルト、水を加えてミキシング、発酵させて3番種を、続けて同様の作業を繰り返して4番種を作ります。ここまできてようやく酵母(ルヴァン種)が完成。事前に加藤先生が準備してくれていたルヴァン種を見ると、ガスを取り込んで気泡がしっかりある状態。また、ほんのり酸味を感じる独特の発酵臭があります。

「発酵臭はあるけれど、嫌な感じはしないでしょう。もしものすごくツンとしたり不快な匂いがしたら雑菌が繁殖してしまったということ。きちんとできていれば、冷蔵庫で3日〜1週間は保存できますよ。皆さんには3番種の状態のものを差し上げますから、是非家でも種継ぎするところから試してみて下さい!」

家で作る天然酵母は難しい、というイメージがあるかもしれません。でも、工程自体はとてもシンプルだから大丈夫。大切なのは酵母は生きているということ。酵母と対話する気持ちで状態を見極めることができれば恐くはありません!

ミキシングを終えたら必ず生地温をチェック


ルヴァン種ができたら、今度はこれを使ってオーバーナイト中種法の天然酵母生地を作ります。中種法ってどこかで聞き覚えのあるような気がしませんか?そう、前回の食パン生地の時に習った、あの作り方。粉の一部に水と少量の酵母を加えて混ぜた中種を発酵させ、その後残りの材料を合わせる(本捏ね)やり方です。中種法で作る場合には、本捏ね時の発酵時間が短くてすむという利点があります。ただ、中種が完成するまでには18時間程度の発酵時間が必要。このため、事前に加藤先生が中種を用意してくれていました。

「使用する中種の量は夏と冬では若干かわってきます。夏は気温が高くて発酵する力が強くなるので、中種の量を減らしてパンを作るなど工夫して下さい」

季節や気温、天候などに合わせて調節する、との話からパンは生きものなんだと改めて実感。マニュアル通りにいかないところがパン作りの醍醐味でもあるのです。

バタールの成形。
折って折って合わせる、が基本の動作


中種と残りの材料を合わせてミキシングしたら本捏ね完了。でき上がった天然酵母生地を常温で発酵させている間、同様にして天然酵母ノア&レザン生地の材料をミキシング。この生地を発酵させてひと段落ついたら、今度はオーバーナイト法のレトロフランスの作業にとりかかります。

「これは0.1%という少量のイーストで作るパン。常温でひと晩、16〜20時間かけてゆっくりと発酵させてあげるんです。そうすると旨みが引き出せるし、劣化も遅くなるんですよ」

そしてここでも季節ごとの心配りが。常温といっても、夏と冬ではかなり室温に差があります。特に今の季節は室温が30℃近くになることも。そこで、水を張ったボウルに生地を入れたボウルを浮かべて、保護発酵という形をとれば程よい温度に保たれるのだそう。
つまりどの季節でもパンにとって過ごしやすい環境を作ってあげればいいというわけなのです。

瞬時にバゲットの成形をしてしまう山本シェフ。50cm近くありそう シェフと同じようにできるのでしょうか?!


続けて、いよいよゲストの山本シェフの講習がスタート!

「ちょっとこれを食べてみて下さい」

シェフが試食用にと用意してくれたのは、お店で人気の「ショウヘイバゲット」と「ルヴァンバタール」。
カリンと軽やかなクラストとコーンのような甘みが魅力のバゲットに、フルーティーな酸味とコクのある甘みが印象的なバタール。どちらも噛めば噛むほどに旨みがじんわり・・・いったいこの旨みはどこからくるのでしょうか。

「一番大切に考えているのは、発酵の過程で旨みを作ってあげるということ。例えばショウヘイバゲットなら、常温で12時間位発酵させています。これは、ゆっくりと時間をかけることで旨みができてくるからなんです。そのため、イーストはごく少量にとどめ、始めのミキシングの時間も短くしているんです。それから、「北杜の小麦」という国産小麦をブレンドしているのもポイントですね。国産小麦を少し入れるだけで随分味わいが変わってきますよ」

粉、水、塩、イースト・・・バゲットの材料はとてもシンプル。それだけに、発酵時間や粉の違いによって味わいが大きく左右されるようです。今回は、コクのある香りと旨みが特徴の北海道産小麦「ジャパネスク」に、力強く濃厚な味わいと香りの北海道産小麦「タイプER」をプラス。そして講習時間内に焼き上がる様にするため、発酵時間がやや短めのものを作っていくことに。

バゲットのクープは深めに、バタールのクープは浅めにと使い分けます クープをスッと入れるのは意外と難しい!


山本シェフの作業工程を見ていて驚かされたのは、その鮮やかな手さばき。パンステージ・プロローグでは1日に350種類!ものパンを用意しています。ミキシングの最中にボウルの中身をじっと見ながら

「こんなにじっくりとミキサーの中を見ているのは久しぶりだなあ。お店ではそんな余裕全くないから」

と笑っていた山本シェフ。びっしりと作業スケジュールが組まれているため、素早く手を動かさなければこなしきれません。分割や成形もとてもリズミカル。もちろん、ただ早いだけではなく、そこにはおいしいパンを作るために欠かせないポイントも含まれています。例えば、細長く成形する時には中心部分に芯を作るような気持ちで力を加減する、そうすると張りのあるぷりぷりとした生地になるから不思議!見ているといとも簡単そうなのですが、実際に生地に触ってみると、やわらかくてとても扱いずらいもの。“何でこんなに違うの〜!?”と悪戦苦闘していると、加藤先生がすかさずひと言。

「そんなに簡単に出来ちゃったらパン屋はいらないよ〜(笑)」

そう、一番大切なのは経験と勘。何度も何度も繰り返して作ることと、五感を働かせながら作ること。プロのレベルに達するためにはこの2つを抜きにしては語れないようです。
他にも、毎回生地の状態を見ながらパンチの回数や強さを変えたり、クープの入れる時のこつなど、プロならではのアドバイスもたくさんいただきました。

バゲット、バタール、エピ、シャンピニオン・・・バゲット生地で色々なタイプを作成 大きなシーターを使って一気に窯へ
大きくて長いスコップを使ってパンを取り出します 焼き立てのバタールはその場で食べるのが一番!


また、テクニックの面だけではなく、山本シェフには自身のパン哲学についても語っていただきました。

「1日に350種類のパンを揃えるために、35種類もの生地を仕込んでいます。出勤するのは午前1時頃、確かにハードな仕事かもしれません。でも、ハード系から菓子パン、惣菜パンに至るまでたくさんのものを用意すれば、子供からお年よりまで、女性も男性も誰でも食べることができるでしょう。誰が買いに来ても好みのパンがある、そんな店を目指しているんです」

山本シェフはクロワッサンを用意してきてくれました! クロワッサンはスペイン式の石窯で焼成 見るからにおいしそうな焼き色!!!


驚くほどたくさんのレパートリーを持つ山本シェフですが、意外にも力を入れているのは食パンやバゲット、クロワッサンなどのシンプルなものなのだとか。それには明確な理由があります。

「基本のシンプルなパンをおいしく作る、これってとても大切なことだと思うんです。食パンやバゲットなど、毎日食べるパンがおいしければ必ずお客様も認めてくれるし、常連さんになってくれるはず」

また、完全週休2日制にしたり、妊娠・出産後も復帰できるようにする環境を整えていきたいと語っていたのも女性スタッフにとっては嬉しいニュース。パンステージ・プロローグのような店が増えれば、今後パン業界で女性が大きな戦力になっていくに違いありません。

ランチは、生のコーンから作ったスープとタラモサラダ。焼きたてパンが良く合います!


天然酵母・レトロフランス・バゲット生地の分割、成形、焼成と次々と作業は進み、今回も厨房内は焼き上がったパンで埋め尽くされるほど。

「こんなにたくさんのパン、どうやって持って帰ろう?!」

皆、悲鳴を上げつつも嬉しそう。なぜなら手間と時間をかけて育てたパンのおいしさは特別なものなのですから。


最後に加藤先生から修了証書が配られました





基本コース全4回の授業を通して、生徒さん達は家庭のパン作りとは違ったプロの環境にもだいぶ慣れてきた様子。パンを扱う手さばきも確実にレベルアップしています。開業したい人、教室を開きたい人、または既に販売している人や教えている人など、生徒さん達のタイプは様々。でも、みんなパンが好きという気持ちは同じはず。そんなパン好きの人たちと一緒にパナデリアも歩んでいきたいと思っています。
基本コースを終えた皆様、本当にお疲れ様でした。そして9月から応用コースへと進まれる方、引き続きよろしくお願いいたします!

※パンの内容については、授業ごとに若干異なりますのでご了承ください






〜 今回作ったパンたち 〜


バゲット
ベーコンエピ
バタール
ブール
シャンピニオン
天然酵母バタール
天然酵母チーズフランス
天然酵母ノア&レーズン
クロワッサン(山本シェフ作)
アンチョビのクロワッサン(山本シェフ作)
パン・オ・ショコラ(山本シェフ作)
ベーコンクロワッサン(山本シェフ作)
チーズクロワッサン(山本シェフ作)