パン・ド・ミに使う粉は、スリーグッド、ペチカ、ニシノカオリの3種類をブレンド。スリーグッドは、横に膨らむ力とコシのバランスが良く、ペチカは、吸水性の良さからまったりとした舌触りを生み出します。

「店では、小麦だけでボリュームのある、軽くしっとりした食パンを作りたいので、砂糖や油脂、卵、牛乳などの副材料は使用しません。今回は、家庭でも作りやすいように、保形性を意識してバターを入れて作ります」

種は、レーズン種とホップ種を使用。ホップ種は、発酵力が安定しているため、生地に適度のボリュームを生み出します。また、熱にゆっくりと反応するので、水分を残してしっとりとした食感も生み出すという効果もあり、食パンに適した酵母といえます。イースト程発酵力が強くないため、フワフワになりすぎず、程よいヒキを残して粉の旨みをしっかり感じることができます。ここにレーズン種を加えることにより、生地に自然な甘みを与え、クラストを甘く香ばしく焼きあげます。




充分な水分量とミキシングに加えて重要になるのは、パンチの作業。手粉を振って、生地を台にあけ、三つ折りを4回行います。志賀シェフのパン作りには、バゲットのように一次発酵の前に引き伸ばしてパンチしたり、パン・ド・ミのように織り畳む作業が入りますが、この作業にはどのような意味があるのでしょう?



「このバゲット生地は、ミキシングをかけてそのまま長時間発酵させるとスープのように溶けてしまいます。酵素活性が強い生地はダレやすいので、低ミキシングにパンチを組み合わせることで、グルテンを出し、酵素の働きを抑えます。パン・ド・ミの場合は、遊離水が表面に浮き出るほど吸水多めの生地を、長めにミキシングし、尚且つひっぱるようにやや強めにパンチすることで、しなやかで柔軟なグルテンを出します。このようにすれば副資材を使わずとも柔らかなパン・ド・ミが出来ます」

生地を何度も折りたたむ作業によって、生地組織が縦に幾重にも積み上げられ、その結果膨らむ力が強くなり、焼成の際にボリュームが出るそうです。 この、手作業でグルテンを張らせるひと手間が、柔らかさの中にもちっとした噛み応えを残し、ご飯を思わせる優しい味わいのパン・ド・ミになります。





こうして長時間発酵させた生地は、見た目はかなりトロトロですが、艶やかな表面のすぐ下ではグルテンの膜が薄く繋がり、膨らむ力を充分に秘めていることが伝わります。分割してベンチタイムを置き、成形へ。大変柔らかい生地なので、丸めるには技術を要しそう・・・。まずは志賀シェフからお手本を。





ガスを抜かないように優しく丸めつつ、表面はきちんと張らせます。出来上がった生地玉は、全く荒れているところがなく、ふっくらと滑らか。

「これは、オーストリアのマイスターのまるめ方。福田さん(※)から教わった手法です。タオルで何度も練習して覚えました。オーストリアの職人は、両手で左右6kgずつ持って、一気にまるめたりするんですよ。最初は難しいと思いますが、この柔らかさと、中にガスが細かくいっぱい入った状態を自分の手で実感することが大切です」

※JPB(ジャパン・プロフェッショナル・ベーカーズ)設立者、福田元吉氏。日本の「ホテルパンの父」とも言われ、志賀シェフ他、ムッシュイワンの小倉シェフなど多くの職人が師事しました。





さあ、オーストリアマイスターの技に習って、パン・ド・ミの丸めにチャレンジ。頼りないほどやわらかな生地をキレイに丸めるのは至難の業。成形に挑戦する参加者には、プロのパン職人の姿も見られました。さすが、その手さばきは慣れたもの。参加されていた、AZULの青山さん(写真右)に「いかがでしたか?」と感想を聞くと・・・ 「志賀シェフの生地を直に触れて感動しました!すごくフワフワで驚きました〜」とのことでした。





パン・ド・ミを焼く型は、斜線状の凸凹模様を施した特注品。ここにもおいしさの秘密が。

「この模様によって表面積が大きくなるので、熱伝導率が良くなり、クラストが薄いながらもカリッと香ばしく焼きあがり、甘い風味が出ます。また、高い温度で焼いても腰折れ(ケービング)しにくくなるというメリットもあります」





ホイロ前


ホイロ後



二次発酵を経て、いよいよ焼成へ・・・!パチパチという音と共に、オーブンから登場したパン・ド・ミ。黄金色のクラストを纏い、こんもりと盛り上がった山からは香ばしい小麦の香りが。思わずこのままかぶりつきたくなってしまいます。




クラストは薄めでパリッサクッと小気味良い歯ごたえ。そしてクラムはモッチリとした食感。志賀シェフの言う「理想の食パンは白米のご飯に通じる」という意味がよくわかります。モチモチしているのに、重たく感じさせないのは、その口どけの良さ。粉の味わいだけで、ここまで奥行きを感じることができるなんて・・・!今までの「食パン」の概念を覆されそうです。




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