カンパーニュは、4種類の粉を使用。ニシノカオリ50%に、フランス産のユシュデ社「Type65」、同じくフランス産でドゥコローニュ社の「BIO Type65」、そしてポーランドのライ麦粉「ヴァンカーラント」を配合します。

「ヴァンカーラントは、保湿性が高く、香りの良さが特徴。私自身、気に入っている粉のひとつです。ニシノカオリの持ち味を活かしながら、たんぱく量の調整と、最終的な味と食感バランスを取るためにブレンドしました」

様々な粉の特製を見極めながら、補完し合うように組み合わせて使う方法。一朝一夕で成せる技ではありませんが、最も大切なのは作りたいパンがどういうものか?という着地点を見つけること。

「形なのか?ボリュームなのか?味か?食感か?または今回のようにメインにしたい粉があるのか?自分が何かやりたいことがある時は、同時に“捨てること”も必要です。私はいつも1か10で、5か6のような間を取るような思考はしません。そうしないと尖がったことはできない。興味の無い価値観を捨てる・・・そうすれば、作りたいパンを作れるようになりますね」

穏やかな口調の中にも確固たる意思が。一見かなり特殊に思える製パン法も、志賀シェフの頭の中では目指すべきゴールに向かって理路整然と突き進んでいる“真っ当な”方法なのですね。




カンパーニュも、水分量74%という高加水。ゆっくりと長く、少しづつ水和させていきます。一般的なカンパーニュは、グルテンを強く出さないというイメージがありますが、発酵中に発生する風味豊かな香りをパンに閉じ込めるためにも、グルテンは必要というのが志賀シェフの考え。ここでは、しっかりこねて繋げます。見極めは、表面にツヤが出てきて、ミキサーの底から生地が離れればOK。ライ麦粉とニシノカオリの粉色から、生地はほんのり茶色がかっています。



今回は、プレーンのタイプとフルーツ入りの2種類を作るため、生地を半分に分け、あらかじめ煮ておいたドライフルーツのワイン煮を混ぜます。その内容は、セミドライのブルーベリー、フランボワーズ、そして色とりどりのジュエリーレーズンをブレンド。シナモンと共に赤ワインで煮込みます。ジュエリーレーズンは、まさに宝石のような色合いが魅力。そのまま食べると甘さと酸味のバランスが良く、レーズン特有の強いカラメル味がしないので、他のフルーツとも相性がよさそう。




一次発酵を終えた生地は、ミキシング直後よりもさらに潤いが増し、表面は艶やか。プクプクと浮き上がった表面を見ると、しっかり中でグルテンが形成していることが確認できます。種にはレーズン種と全粒粉で起こしたルヴァンシェフを使用。当日仕込みのものは、イーストを配合して発酵力を促進します。

「発酵力は、同じ分量の酵母で作っても、粉によっても温度帯でも生成のされ方が大きくかわっていきます。目では見えませんが、感触で発酵の具合が実感できるので、手で触ってしっかり覚えるということは大事。毎日の経験から導かれた答えは、数字で取ったデータや実験よりもずっと正確です。事実、純粋培養した酵母と、生地の中にいる酵母では活動の仕方が全然違いますからね」




生地を痛めないようにカードで分割し、成形へ。丸め方はパン・ド・ミと同様、転がすようにして中に空気を閉じ込め、ふんわりと丸めます。籠に麻布を敷き、手粉をたっぷりと振ったところに生地をいれて、2次発酵へ。
パン・ド・カンパーニュに代表される大型パンは、型に入れないと、生地自体の重みでだれてしまい、綺麗な形を保つことができません。また、籠に入れて生地に厚みを持たせることで発酵がスムーズに進むという役割もあるそうです。




表面を揺すって、プルンプルンと柔らかな弾力を感じれば、窯入れのサイン。籠から出すと広がってしまう緩い生地なので、余分な力を加えないように籠を逆さにして取りだし、すばやくクープを入れます。




一方、フルーツを練りこんだ生地は、そのまま焼くと炉床に着いたフルーツが焦げてしまうので、プレーンの生地で包みます。“おくるみ”に包まれたカンパーニュ・フリュイは、キャンバスに並べてニ次発酵へ・・・。




“高温焼成”も、志賀シェフの流儀。しっかりと中まで火を通し、ガシッとクリスピーな食感のクラストに、余分な水分はしっかり飛ばしつつ、もっちりしっとり感のあるクラムが出来上がります。蒸気を入れることで、鋭く裂けたクープからなんとも香ばしい薫りが放たれます。“SS”デザインのクープは、シニフィアン・シニフィエのサイン。

「カンパーニュの断面を見ると、大小の気泡が散らばっているのがわかると思います。気泡が不均一なパンは、2〜3日たってもおいしい。熟成されたパンは、ソフトなパンとは違ったおいしさが生まれます。パンは生鮮食品であると同時に発酵食品だということを考えて作るようにしています」



カンパーニュ

焼成時間が長いため、やや厚みのあるクラストが特徴的。それも、ただガッチリと厚いのではなく、歯切れの良さとクリスピーな食感が心地よい。クラムは、気泡の中に重過ぎない適度な水分を閉じ込めています。味に主張のあるBIOのフランス粉にも、ニシノカオリは負けない強い旨みが。多数の気泡が入っているので、軽さがあって味が濃すぎてないのが絶妙。



カンパーニュ(フリュイ)

紫色の生地には、じんわりとフルーツの酸味と甘みが行き渡る。フルーツの味わいをしっかり感じさせつつ、粉の旨みを削ぐことがないのはさすが。むしろ、粉の力によって、ドライフルーツのジューシーな果実感と爽やかな酸味が助長されているかのよう。







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