ミルリトン発祥の地なのに?


翌朝、まだ暗いパリを出て、ムッシュ三宅の運転する車で、まずはルーアンを目指す。大聖堂のある街だ。借りた車の天井がガラス張りで、なんと頭上にはたくさんの星が。北斗七星を見つけたりしながら、朝の星空にちょっと感動。いいお天気にも感謝した。

思いのほか早い時間に到着したルーアンの、早朝の寒さはかなりのものだったけれど、薄紫色の空に大聖堂の美しいことといったらない。
空が明るくなってくるにしたがい、鳥たちがそこからたくさん飛び出してきた。
「可愛いねっ」
なんて言いながら見上げていたのは最初だけだ。
信じられないほど大量の鳥が大聖堂の中から出てくるではないか。何百どころではない。何千という鳥が、まさに溢れるように次から次へ。冗談ではなく、ここだけ空が黒くなりそうなほどなのだ。ほとんど恐怖であった。


フランスのゴシック建築の最高傑作とも言われる、ルーアン・ノートルダム大聖堂。12世紀から16世紀にかけて建築された


時間によって刻々と表情を変えするその姿は、クロード・モネの心をも捉えた。大聖堂を被写体にした絵が多数残されている


到着したときは真っ暗! しかも寒い。朝が早いフランスのブーランジェリーもさすがにまだ開店していなかった


さて、ルーアンと言えば、ミルリトン発祥の地ということをご存じだろうか。事前に調べたところ、町でミルリトンを売る店はいまや2軒のみという。まずはその一軒、店名がそのまま「ル・ミルリトン」というブーランジェリーへ。
扉を開けると、おいしそうな顔をしたパンが並んでいて、思わずいくつも購入した。シリアル入りのパンを始め、期待以上においしくて、まさに予期せぬ大当たりだったのだけれど、問題だったのは肝心のミルリトンだ。ショーケースに見当たらないのである。
「まだ朝早いから、焼きあがっていないのかなあ」
店の人に聞いてみることに。しかし困ったことに、「ミルリトン」という単語が通じない。何度発音してもダメ。誰がやってみてもダメ。かろうじて綴りを見せると、やっとわかってもらえたのはよかったけれど、なんと、売っていないという! えー。店名にもしておきながら、そんなことってあっていいの?


「ミルリトン」で購入したパンを、近くの広場のヘーゼルナッツの木の下で撮影。寒い中、つまみ食いをしながらパシャパシャと。朝の焼きたてという好条件もあって、つまみ食いは、いつしか本気食いに!


とくにおいしかったのは、何種類もの雑穀がたっぷりと入ったミレピ。ひとつひとつの穀物の味の違いがわかるほど、風味がいい。パン・オ・レザンなどのバターたっぷりのパンも美味



仕方なくミルリトンを売るもう一軒の店に向ったのだが、こちらもちょっぴり嫌な予感が。確かにそれらしき店はあったが、持ってきた資料と店名が違うのだ。中に入って尋ねると 「その店は以前ここにあった店よ」
と言われてしまった。新しい店にミルリトンの姿はなかった。
その後、街にあるいくつかの店を覗いたが、ミルリトンは発見できずじまい。つまり、ミルリトン発祥の地にミルリトンはなかったのである!

ミルリトンは諦めて、ルーアン土産というリンゴ飴を買った。妙におしゃれなお店で売られていて、これが意外と高かった。にもかかわらず、味が今一つで大不評(笑)

その後、近くの市場で量り売りしているバターを購入。これはわたしたちの中で「オバサンバター」と呼ばれ、のちのちまで大変好評であった。なぜオバサンバターかというと? それは単に、威勢のいいオバサンが切り売りして売っていたからである。


ジャンヌダルクが処刑された広場の近くにあるショコラティエが作る「パイヤディーズ」というお菓子。チョコがけの中はヌガーでかりっと。店内でひとつ試食させてくれたのに満足してしまい、買うには至らず


市場の一角で、おばさんが一人でチーズやバターを売っている店。塩の入ったもの、入っていないものとあり、それぞれ計り売りしてくれる。「オバサンバター」は日にちの経過とともに味が変わっていくのが魅力


次の目的地はシェルブール。旅のメインイベントの一つ、「ラ・メゾン・デュ・ビスキュイ」訪問だ。


ノルマンディーののどかな風景。緑の平地が続く。ちょっと道をそれると、ル・アーブルやエトルタといった海の近くの魅力的な場所もある