エシレの工場で食べた、出来立てバターの味


翌日訪れたエシレ村は、想像通りの可愛い村だった。赤い屋根の小さな家があって小人たちが出てきそう。工場と言っても、無機的な冷たい感じがまったくない。敷地内には小川が流れていて、とても静か。と、突然ユカコが素っ頓狂な声をあげて話し始めた。
「川!!! わたし、前世は絶対エシレ村の住人だった気がする。きっとバターを作っていたと思う。子供の時描く絵には必ず川が流れていて、赤いおうちがあって、まさにこんな感じだったもの」
と目を潤ませんばかりに語り始めるではないか。確かにユカコは、生クリームと並んで無類のバター好きだ。
「絶対、前世はここにいたと思う」
うんうん、そこまで言うならきっとそうなのだろう。ユカコは水を得た魚のように生き生きとし、バター工場の中で誰よりも熱心にエシレの方の言葉に耳を傾けていた。


のどかに川の流れる風景。ユカコはここで生まれた?


敷地内にある昔の工場。今はりっぱな工場だけど、昔はこんなにかわいらしいところでバターを作っていたのかと思うと、うーん、エシレのイメージにぴったり!


工場内では、全員がビニール製の
雨がっぱのようなコートを着用



見学の中でも目玉は、やはり出来たてのバターがウッドチャーンと呼ばれる昔ながらの樽のような器械から出てきたところだろう。白いバターが、私たちの感覚で言えば、バターらしくないすごい量でどっさりと台車に積まれる。そして手作業で、重さをはかってパックされていくのだ。
夢にまで見た、出来たてバターの試食もあった。わたしは指の先にたっぷりとそれをつけ、口の近くに運んだ。香りはあまりないが、それはバター工場の中でバターに囲まれ、麻痺しているのかもしれないと思った。ぱくっと、一気にバターを口に入れた。芳醇で濃厚な味が広がると思いきや……、あれえ? あまりにあっさり、あっけない味だったのである。おかしいな。もう一度。結果は同じだ。
「バターのあの香りとコクは、ここから1週間くらいして出てくるんです。作りたてはあまり味がしないと思う」
とエシレの方が言う。そうか、知らなかった……。


エシレで使われているウッドチャーン。クリーム1トンから約500キログラムのバターが出来るそう


それにしても出来たてのバターは、あまりにするりと体になじむように口の中から消えていく。融点が低いような感じ。ダメダメ危険。今ここに、パンとちょっとの塩があったら、いくらでも食べられてしまいそう!


工場見学のあとは、牛舎を見た。今の季節、牛は牛舎で生活をし、夏は放牧されるそうだ。 さて、エシレ村とお別れのあとは、イル・ド・レというリゾート地でランチをとることに。1時間程度で着く予定なのに、迷ってなかなかニオールの街を出られなかったのはなぜ? きっと「ここが前世の町」だなんてユカコが言ったから、ニオールはそう簡単にユカコを帰させなかったに違いない。


冬の間は牛舎で。子牛は少し離れた場所にいて、どきどき「モ〜〜〜ウ」と泣き声を上げていた


エシレの組合に入っている酪農家。大切に牛を育てる農夫の方。搾乳したミルクは毎日エシレの工場に運ばれる




※エシレの工場見学は一般に公開されていません
今回片岡物産のご好意で特別に見学させていただきました。

※エシレの工場見学の様子は、次回会報誌で
詳しくご紹介します。お楽しみに!