小さな事件


車に乗り込み、レストランの敷地を出てゆっくり動きだしたところへ、一人の少年がやってきた。運転しているムッシュ三宅の窓をコンコンとたたく。あけると、金色をした指輪のようなものをさしだしてくるではないか。
「これ、落とし物」
見覚えもないし、誰も落とした記憶はなかったが、受け取った。
すると1分としないうちに少年は戻ってきて、
「3ユーロ」
と、さっきの指輪代を請求してきたのである。
もしかして、もしかして! わたしたち、騙されちゃったってこと? ムッシュ三宅が3ユーロを差し出した。彼はそれを受け取って、すんなり立ち去っていった。
「いやー、うっかりしちゃったね」
ムッシュ三宅が笑うのにつられて、ほか3人も大笑いしてしまった。
「だけど、わたしたち、存分においしいもの食べたから、彼にもおすそわけしないと、バチが当たっちゃうよ」
と、マダムまゆみ。
「確かに。3ユーロ、有効活用してほしいよね」
「ジャンクフードなんて食べないで、ちゃんとおいしい店のバゲッド買ってほしいよね」 と、ユカコとわたし。
あの店のバゲットはやめてほしいだとか、是非あそこで買うべきだとか、3ユーロでおいしいサンドイッチは買えるだろうか、と、みんなで、指輪の彼が是非3ユーロを最大活用することを願う、おせっかいな心配をした。どうやって使ったか、報告に来てほしいくらいだった。

これがその指輪!
3ユーロは高すぎる!

食事が終わった後、ルドワイヤンの前で記念撮影。全員が満腹+満足そう。あの少年、このときから、あいつらをかもにしてやろう!と思っていたのかも。でも確かに、私たちだけおいしい思いをするのは、不公平?


この日、ランチの後は自由行動に。明日は帰国だから、荷物の整理もしなくてはならない。大量の荷物を前に部屋の中でわたしとユカコは困り果てたが、同じころ、当然ムッシュ三宅とマダムまゆみも困り果てていたに違いない。何しろ、すでに郵便局で7キロ用のダンボールを5箱も購入していたのだから!