Text:Chiemi Sasaki



フランス版バウムクーヘン“ガトー・ア・ラ・ブロシュ”を、プロのパティシエが薪火で焼くという、なんともユニークなこのイベントも今年で5年目。毎年同じことをやっているので、いつものメンバーもいれば、新たに加わる人もいて、少しずつ違う雰囲気になるのもまた楽しい。スケジュールの都合で来られなくなったメンバーもいる中、急遽2日前に参加可能となった人もいたりと、ドキドキわくわくしながら当日を待つこととなりましたが、たくさんの方に集まっていただき、とても賑やかな会となりました!

そもそもこの会が発足したきっかけは、10年前に私個人的フランス地方めぐりで出会った、農家のおかみさんが薪火で焼く串焼き祝い菓子の光景と味が忘れられず、テレビ番組やシェフに語りこんだらウソみたいに実現したもの。
コーンのような、円錐形の心棒に、少しずつ生地をたらし、回転させながら火入れすることで、表面に自然のオブジェのような突起の出来るフランス版バウムクーヘン〜ピレネー地方の郷土菓子「ガトー・ア・ラ・ブロシュ」。丸いもの、巻物、背の高いものは世界共通の縁起物なのか、炎が人を引き寄せるのか、かまどで完成していくガトーを前にして、みなが輪になっていくのを感じます。その空気感といったら、ガトー同様、一度味わったら忘れられません!


4月24日、会場はいつもの「上郷・森の家」。横浜市にあって、鳥の鳴き声や新緑がすがすがしいBBQ場です。朝の早いシェフと職人たちは開場10:00前には到着・・・しかし着いてみると雨。開催以来初の雨降りです。でも落胆している場合ではありません。職人達は段取りよく道具や材料を運び、どんどん設営が進んでいきます。「ラ・スプランドゥール」藤川浩史シェフ考案の、割り箸を心棒にした円錐形の心棒の道具も年に一度の晴れ舞台。5年前の準備段階で、この円錐をどうやって作るのか、一番頭を悩ませたところなのです。フランスから輸入できるのか、とか、木工職人に作ってもらうのはどうか・・・? 問い合わせをしても何に使うかを説明しないとわかってもらえないし、円錐というのは簡単にできるものではありませんでした。だから、この割り箸心棒には本当に脱帽なのですよ!




心棒に丁寧にアルミホイルを巻きつけ、薪に火をくべ、熱で予め十分心棒を温めます。そして早速会場で仕込んだ生地を少しずつたらし、くるくる回しながら焼いていきます。たらしては回し焼きを繰り返し、つんつん角のできる表面の造形が何度見ても面白い。すっかり慣れた感のある藤川シェフ。なんだか今回はとてもスムーズで、お昼前には1本焼きあがり。そしてもう一度アルミホイルを巻きつけているではありませんか!? えっ、二本目をやるのですか?

「いや、わかったんですよ」 何やら掴んだ様子の藤川シェフ。

何がわかったのかはわかりませんが、本当にスムーズに均一に焼けていきます。実はそこには火のエキスパートの助けがありました。今回初参加のS姉妹。彼女が働くイタリア料理店には薪ストーブがあり、薪火を操るのはお手の物。どのタイミングでどの位置にどういう置き方で薪を足せば均一に熱がまわるのか、藤川シェフチームの薪番人としてパシッと火を制していたのです。かっこいい!






お隣では「オ・プティ・マタン」武井晴峰シェフが、クレープを焼いています。こちらも毎年クレープ!? でもそこはひとつのことに研究熱心な武井シェフのこと、昨年と同じレシピのはずはありません。お店のクロワッサンにも配合している自家製ロースト小麦粉を、クレープ生地にも使っていました。だから色がちょっと濃いイエローなのですね。一枚ずつ人数分を焼いたら、たっぷりの赤いベリーと、オレンジジュース、キャラメル、マンダリンナポレオンを贅沢に使ったソースで、レストラン以上の材料を使った贅沢なクレープ・シュゼットの出来上がり!







「アイスクリームをのせて食べますか?」と武井シェフが取り出したのは、5種類もの自家製アイスクリーム。ヴァニラ、ピスターシュ、ショコラ、ラムレーズン、プラリネと、どれもひと口ずつ食べないと気がすまない私達参加者。マイスプーンを持って、アイスクリームの前は大賑わい。クレープ・シュゼットに添えれば、温かい&冷たいデザートへと変身。もっちり歯切れのよいクレープに複雑なソースとアイスクリームが絡み、それはもう夢心地!

武井シェフが用意したもうひとつのメニューはパンケーキ。巷でブームなパンケーキも、武井シェフの手にかかれば、ひと味もふた味も違うものになります。だってこの色を見てください。ロースト小麦粉はここでもいい出汁に! 香ばしくてキレのよい歯ごたえがたまりません。はちみつやキャラメルソースをかけて。




もうひとつの炉で料理を準備してくれるのはフレンチレストラン「ル・ヴェルデュリエ」の荒井ひとみさん。小柄な荒井さんが、直径50cmはありそうなフライパンで、いくつもの豚肉をジューッと焼き上げていく姿は逞しい! 屋外とはいえ、そこはフレンチの料理人、オードブルからメインのお肉までコース仕立てです。盛り付けの彩りも美しく、並べるそばから参加者の食欲を刺激。お野菜と鶏レバーのテリーヌやガランティーヌ、スープ、シーフードリゾット、豚肉のシュラスコと次々出来たてが胃の中に・・・。









武井シェフのお隣で、何やら炉に組み入れるパナデリアの三宅さん。これはパンを焼くための溶岩プレート。パナデリア・パン教室でお世話になっている櫛澤電機さんのご好意で、溶岩窯に使われているプレートを提供くださったとのこと。上下にはめ込んで即席ミニ溶岩窯の出来上がり。さてさて、面白くなってきましたよ!








薪火と炭でじっくり熱を蓄えさせ、参加メンバーの松浦さんが仕込んできたカンパーニュ生地をそっと入れ、待つことおよそ20分。「わっすごい!」、見事な焼き上がりに歓声が沸きます。野外にもってこいの牛乳パック食パンもナイスアイデア!
続いて、三宅さんの仕込んだピッツァ登場。ふるふる卵がのっかったビスマルクもこの通り! さすが、パナデリア(スペイン語でパン屋の意味ですから)主宰です。
いやいや〜、たったこれだけの仕掛けで本格的なパンが焼ける驚き、感動ったらありません。ありがとう、櫛澤電機さん!










一方、藤川シェフはガトー・ア・ラ・ブロシュの2本目に取り掛かりました。キャラメル味。5年目にして初めて違うフレイバーの試みです。さあ、どんな仕上がりになるのでしょうか?





さらに赤いストウブ鍋でちょっとしたデザートも作ります。マンゴーにクリームチーズを散らし、トロピカルフルーツのソースと蒸し焼きし、熱々のところにマンゴー&パッションフルーツのソルベをトッピング。まったりマンゴーとバナナに、きりっと冷たいソルベの酸味で瞳孔がパチリ! 正直、BBQ場で食べるレベルを超えています。





慎重に心棒から抜き、冷ましておいた一台目のガトー・ア・ラ・ブロシュには真っ白なグラスアローを塗って仕上げると、ぐっとエレガントに変身。キャラメルの二本目はそのままナチュラルでいくことに。





心配していた雨もすっかりあがり、4時前には余裕でBBQ場を出て、二次会場のオ・プティ・マタンに移動。いよいよガトー・ア・ラ・ブロシュに入刀です。






どうですか、この切り株。年輪の自然な強弱から生命力を感じませんか? 一方キャラメルのほうは、中までキャラメル色、年輪こそよく見ないとわからないのですが、つんつんたった角と甘いキャラメル香に注目が集まります。

みなで切り分けて同じテーブルを囲んでいただくと、この日各々が成し遂げたことが一体化するよう。焼いてすぐのガトー・ア・ラ・ブロシュは、カリッと香ばしく、噛むほどに広がる芳醇なバターの旨みと、炎の精の余韻・・・。また、ほろ苦さが薪火のスモークとマッチしたキャラメル味はちょっとはまりそうです。
残った分は持ち帰り、日を置いて熟成させるのも毎年の楽しみ。

毎年同じ場所で、同じシェフが、同じお菓子を作るのに、毎年が違う。一期一会のガトー・ア・ラ・ブロシュ。参加者で一部写真を提供してくださったSさんからはこんなメッセージが・・・。

「いつも楽しみに参加させていただくのは、もちろんシェフのBBQ場とは思えない工夫から生まれてくるご馳走の数々、火を囲んで作っていくワクワクをみんなで共有できる楽しさにあります。特に、隣の方と目が合った時の、お互いの期待で一杯の笑顔が最高です」。

藤川さん、武井さん、荒井さん、三宅さん、そして参加してくださったみなさま、本当にありがとうございました。2014年も、4月の第3あたりの水曜日に開催するつもりです。来年こそは!と思われた方、そのあたりは今からあけておいてくださいね。

参考までに、2012年の様子はこちら↓
http://www.panaderia.co.jp/event_report/party_broche2012/index.html

2011年の様子はこちら
http://www.panaderia.co.jp/event_report/party_broche2011/index.html

記念すべき第1回の様子はこちら
http://www.panaderia.co.jp/event_report/party_broche/index.html






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