Text by Chiemi Sasaki  



パナデリアのレポートでもすっかりお馴染みとなった“ガトー・ア・ラ・ブロシュ”の会。プロのパティシエが薪火で焼くフランス版バウムクーヘンとお料理の会を今年も4月に開催しました。

(この会の経緯を知りたい方は、パナデリアに掲載中の過去のレポートをじっくりご覧くださいね)


ずっと傘マークだった週間天気予報が直前に雲マークになり、風もなく穏やかな当日、8年目7回目を迎え、すっかりお馴染みの屋根付きBBQ場には、開園前から到着していたパティシエたちが、オープンと同時に次々と道具や材料を搬入。ガトー・ア・ラ・ブロシュを焼くための、炉のセッティングが段取りよくされていきました。

今回も、ガトー・ア・ラ・ブロシュは「ラ・スプランドゥール」藤川浩史シェフを、お料理とデザートは「オ・プティ・マタン」武井晴峰シェフを中心にして進められました。

まずはガトー・ア・ラ・ブロシュから。いつも通り、特注の回転棒に割りばしを使って作ったコーンを取り付け、生地をかける部分にアルミホイルを巻きます。同時に薪をくべて火を起こし、火力を安定させます。今年は薪火のスペシャリスト不在のため、みんなで火をコントロールすることに。スペシャリストから学んだこととこれまでの経験から、何とかやるしかありません。そして生地作り。これまで1本目はオレンジゼスト入りがお決まりでしたが、今回初のバニラ風味を仕立てることに。別立ての卵生地の色がシックなベージュになる位バニラビーンズを混ぜ込みました。甘い香り。さあ、手で串を回しながら生地をのせ、焼成開始です。

手づくりのこのコーンも8年目。もう手慣れたものです!

炉を覆う金属板の上で生地に混ぜるバターを溶かす。


薪火の操り方によるのか何なのか、昨年に比べ思ったより時間がかかりましたが、お昼過ぎに1本目のバニラが焼きあがりました。重さのために、コーンから抜くときに底になる方が少し割れてしまいましたが、そこはプロのパティシエたち。チームプレーにより見事立たせることに成功すると、周囲からは拍手がわき起こりました。リキュールで香りづけしたグラスアローを表面に塗り仕上げます。

バニラをたっぷり入れた生地。

コーンに生地をかけていく。

チームワーク抜群で焼き上げる。


2本目はカカオ味。作り方は昨年と同じですが、カカオプードルにベルナションのものを使用。なんとこの会に使って欲しいと送ってくださった方がいらっしゃったのです。やや時間を気にしながらも、慣れた感じも出てきた午後、生地をコーンにかけてはカカオニブも散らし焼くのを繰り返し、3時過ぎには2本目も焼き上げることができました。その集中力やさすが。うちわで扇ぎ、プラックに生地の滴りを受け止め、熱くなったハンドルを回すパティシエたち。汗だくになりながらも懸命にやり遂げようとする新人パティシエの姿もほほえましい。きっとこれが職人の世界なんでしょうね。アルマニャックを利かせ、さらにカカオパウダーも混ぜたグラスアローを塗って、カカオ尽くしのガトー・ア・ラ・ブロシュに。これは美味しいに違いない!


2本目のカカオ生地を仕込み焼いていく。

カカオ生地にはアルマニャックで香り高いグラスアローを仕込み塗っていく。

粗熱がとれたカカオ版をコーンから外す。

出来上がった2本のガトー・ア・ラ・ブロシュ。太さが違うのは、時間の関係で使った生地の量が違うため。


途中、藤川シェフのスペシャルなスイーツが登場。高さ80cmはあろう大きな花瓶(!?)に美しくアレンジされたジャスミンのゼリー、ライチのムース、マンゴー、サブレ。巨大ヴェリーヌとでもいうか、その迫力といったら女性一人では持ち上げるのがきついほど。これで20人分以上。それぞれのパーツを取り交ぜてカップによそっていただきました。つるんとした喉ごしとエキゾチックな果物の香りが口の中で広がり美味しい。


20人分が入ったヴェリーヌは迫力満点。美しくパーツが配置されているのもお見事。

高さがあるので少し傾けてレードルを使って取り分けて…。


さて、武井シェフが腕を振るうお料理とデザートの炉はどんな感じでしょうか?
事前に聞いていた今年のメニューは…
新玉ねぎのスープ、サラダ、ソーセージ、子羊と野菜のクスクス、メインは恒例となったジゴダニョ(仔羊のモモ肉のロースト)、じゃがいものドフィノワとピッツァ・カルツォーネ。デザートは蒸し焼きショコラとピスターチのアイスクリーム。蒸し焼きショコラはカカオのガトー・ア・ラ・ブロシュと同じく、提供いただいたベルナションのアメール75%を使って、小麦粉を使わずに作るというもの。それともうひとつ、サプライズメニューが。

何でしょう、サプライズメニューって!?

ドキドキしながら箱を開けると、中には見覚えのあるお菓子〜北欧菓子のセムラが入っているではありませんか。私があまりに話題にするので、武井シェフが興味を持って作ってくださったのです。食べたことのないお菓子なのに、とてもよくできていて感激しました。まさにサプライズです。集まった方々も食べたことのない人がほとんどだったので、興味を持って召し上がっていました。


箱の中からはサプライズのセムラが登場!ミルキーなクリームとアーモンド、カルダモン風味がマッチング。

初体験のセムラを興味津々で召し上がるみなさんと武井シェフ。


3年前にこの会で試みたジゴダニョに手ごたえを感じた武井シェフ、レンガを使って独自に炭火肉塊焼用の炉を組み立てているではないですか。毎回知恵を絞って道具を作ってしまうのが本当に素晴らしい! ちょっぴり子供の頃の遊びに通じるのか・・・なんて思ったり。その創意工夫と経験の賜物か、今年のジゴダニョの出来は昨年より一層良い焼き加減に。ハーブの香りとジューシーな旨みがたまりません。また、今年は仔羊肉メニューがもうひとつ、野菜と煮込んだクスクスも登場。もうロゼワインが飲みたくて仕方ありません。


今年は炉にレンガを積んで熱源を肉に近づける工夫をされた。

新玉ねぎのスープは野菜の甘さが引き出され美味。

サラダ、ソーセージ、パン。





ジゴダニョ焼き上がりをスライスし、
ドフィノワと盛り付け。

仔羊と野菜のクスクス。野菜もお肉もたっぷり。

レンガの上に天板を被せ、即席ピッツァ窯で焼くカルツォーネ。

焼き色も上々、中から卵とチーズがとろけ出る。


ベルナションのアメール75%を贅沢に使った蒸し焼きショコラの生地作りには新人パティシエたちも大活躍。蒸気の中からふわっと盛り上がったショコラがおいしそうに顔を出すと、すでにお腹はいっぱいのはずなのに、早く口にしたい気持ちが抑えられません。ピスターチのアイスクリームと一緒に食べれば、温かい&冷たいのコントラストを楽しめる立派なデザートに。いやいや、一日限りのレストラン・タケイは今年もすごかった。


ベルナションのスーパーアメール75%。これを刻んで溶かして蒸し焼きショコラに。

新人パティシエさんが生地を仕込みました。



鍋で蒸して出来上がり。

中はとろり、カカオの風味が際だつ。


パン部門は3人、そのうち井土ヶ谷で「Sandwich World」というカフェを運営するありがさんが初参加で、イングリッシュマフィン風のパンを焼いてくれました。BBQ場でパンを焼くのは初めてだそうですが、両面焼き色のついたパンはふっくらやさしいおいしさ。何かサンドしたくなりました。

ありがさんのパンはマフィンのような自家焼き。


パン教室の他に旭区地域活動ホーム サポートセンター連内のパン屋さん「こんがり工房」で活動されている松浦昭子さんは、この会の常連メンバー。今年は工房での仕事を終えてからパン生地を持ってかけつけてくださいました。ダッチオーブンを使ってじっくり火入れした国産小麦のパンは、予想より時間がかかってしまったけれど、開けてみれば元気よく膨らんでいてふんわり、癒され系の味わいでした。

松浦さんのパンは国産小麦で仕込んだ大きくてプレーンなパン。


そしてパナデリアもダッチオーブンとパン生地持参で、恒例のパン作りに挑みました。慎重に火加減とタイミングを見ながら進めていく姿は、焼き上がりのパンにも反映されていました。雑味のない繊細な味わいは、BBQ場で焼くパンのワイルドなイメージからは想像できないほど。



パナデリアの三宅作のパンは、レーズン入りとプレーンなカンパーニュ風。


今年は私もパンを焼いてみました。イーストと水、ミックス粉を混ぜて木の型に流し、発酵させて焼くスペルト小麦&雑穀のドイツ製家庭用パンミックスを、ドイツ在住の友人が、この会のためにと送ってくれたのです。何しろ用意するのは水だけ。型もセットになっているから、BBQ場で焼くにはうってつけと思ったのです。後は火加減とタイミング、しかしそこが一番のハードルです。焼き上がりはもうちょい温度を上げたかったかなという感じ。でもこんなにお手軽なパンミックスがスーパーで買えるなんてさすがベイキングの国ドイツ、うらやましいです。

ドイツ在住の友人からの応援品、パンミックスで焼いたスペルト全粒麦&雑穀のパン。


いつも通り4時の閉場とともに、完成したガトー・ア・ラ・ブロッシュを持ってオ・プティ・マタンへ移動し、試食会です。

テーブルにそびえ立つ2色のガトー・ア・ラ・ブロシュ、いつまでも眺めていたいところなのですが、試食のための入刀が、新人パティシエたちによってすみやかに行われました。味のある年輪が見えると気持ちが高揚し、バニラやカカオの香りに圧倒されます。ゆっくり火入れしたバニラはさっくり、バニラより短時間で焼き上げたカカオはしっとりした生地感になっていました。火加減、回転のさせ方…etc. 毎年同じことの繰り返しなのに、毎年違う。それが楽しい。
今年は新人パティシエたちのがんばりに心を打たれました。そして新しい参加者との出会い、つながりに喜びを感じました。カカオやショコラを提供くださったIさんは、フランス古典菓子に造詣が深く、河田勝彦シェフのフランス菓子紀行から、ガトー・ア・ラ・ブロシュと出会うシーンを教えてくれた方。ドイツからパンミックス等を送ってくださったYさんは1回目の参加者。
一期一会のガトー・ア・ラ・ブロシュ。 ですが8年の年輪は、それ以上に幾層にもなっていたのです!



オ・プティ・マタンのサロンに会場を移しカットしていく。力強い断面が現れた。

ほっと一息の藤川シェフ、武井シェフ。


藤川シェフ、武井シェフ、参加くださった皆さま、遠くから応援してくださった方々、本当にありがとうございました。2017年も、4月の水曜日に開催する予定でおります。ぜひいらしてください。

焼きあがったガトー・ア・ラ・ブロシュと一緒に、ハイ・チーズ!



参考までに、2015年の様子はこちら↓
http://www.panaderia.co.jp/event_report/partybroche2015/index.html

2013年の様子はこちら↓
http://www.panaderia.co.jp/event_report/partybroche2013/index.html

2012年の様子はこちら↓
http://www.panaderia.co.jp/event_report/party_broche2012/index.html

2011年の様子はこちら
http://www.panaderia.co.jp/event_report/party_broche2011/index.html






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